中高合わせて5年目、色んなことがあった。
コロナ、友達を失って、一人ぼっちで、留年して、今また一人ぼっち。今までどうやって生きていたのかさえ、分からなくなってしまって。ただ、呼吸して歩いて、存在の意味も分からなくて。
お粗末で、寂しくて、馬鹿で、阿呆で、でも楽しかった気がします。でも頑張っていた気がします。誰よりも、と涙を流した記憶もあります。
こんなでも、多分一生懸命生きていました。
もういいのかな。
もう終わりにしても。
色んな人に迷惑も心配もかけて、かけるけれど、終わりにしていいかな。死にたいって精神異常者しか持たない気持ち?わたし、まともじゃない、それはそうなんだけれど、でもまともに生きたかったのよ。みんなと同じようにみんなと並んで、歩きたかったのよ。
誰も、並んでくれなくなって。
私は、生きる意味も見失いました。
ごめんなさい。ごめんなさい。
あなたが、口紅を塗る姿が好きでした。
手鏡を見ながら、唇をなぞっているあの瞬間、あなたは誰よりも可愛くて。
その塗り直した綺麗な唇を乱してしまうのが嫌で、そっと、触れるようなキスしか出来なかったのを覚えています。
塗り直すのが面倒で、ほんのり色づく程度のリップクリームしか塗っていなかったわたしに、顔色が悪そうに見えると言って、色鮮やかな赤の口紅をつけてくれたことがありましたね。それがとても嬉しくて、口紅を買わずにいました。また、つけて欲しくて。いつもの通りの顔を見るごとに、あなたは不満がっていたけれど。
でも、あなたの瞳に映るわたしは、あなたの口紅の色で血色が良くなっていたでしょう?
あなたは、派手な色が好きだったから。
最近、薄い口紅をよくするようになりましたね。
理由を聞いた時、その薄い肌なじみの良い口紅より、赤くなった耳にわたしは気づいていたけれど、気づかないフリをしました。
しかし、わたしの為でも自分の為でもなく、わたしの知らない誰かの為に口紅を塗る仕草が、好きだったはずのあなたの仕草が、嫌いになってしまって。
でもあなたの傷ついた顔が見たくないから、勝手に消えるわたしを許してください。
あと、1つだけ。
あなたは口紅をたくさん持っていたでしょう。なので、あの時の口紅を一本、いただいていきます。もう、あなたには必要の無いものだと思うから。
ごめんなさい。幸せに。
朝に飲む薬は苦い。
だけど夜に飲む眠剤は甘い。
睡眠というのは、いつも死に1番近くて。
眠剤の後味は罪の味だと思った。
死を囁いてくる死神の声も甘いのだろう。
地に堕ちる時は、甘さが纏わりつくのだ。
甘い。甘い。
地の底はもうすぐ。
誰がために、我はいるのか。
他人の指標でしか自分の価値をはかれない私の、生きるにあたって1番大事な論点だ。
誰がために。誰のために。
私の存在理由は?
誰がために、それは運命の人、と呼ぶものだろうか。
そうぼんやり考えながら、今日も通学路をぽとぽと歩く。
「あっ!」
少し先から驚嘆の声が。思わずそちらを見やる。すると、私の高校のすぐ目の前にある高校の制服が。
何かを探している…様子。
ああ、大変ね、と足を踏み出そうとした時、ふと地面に小綺麗なハンカチが。
あ、これは、もしかして、もしかするのだろうか。
ドカンドカンと聞いたことのない音色を心臓が奏でだす。
震えだした腕をなんとか抑えながら、そっとそのハンカチを拾い、目の前で未だにわたわたと何かをがしている様子のその子に声をかける。
夏の終わり、汗の香りがふわりとした。
「あ、あの…落とし、まし、た……?」
顔は見れなかった。
ただただ、私の手の中の、くしゃくしゃになったハンカチを見つめていた。
『コイビト』
それは、火花が散るように瞬いていて。
恋をしたときに似ていた。
右手のカップ酒がゆらりと揺れる。
狭いベランダで、化粧も落とさずスーツも脱がず、星空をツマミに飲んでいても、いつかの叱る者はいない。
ここは星がよく見える。そう言うから、ここを借りた。
私は星の名前がわからないのに。全て同じに見えるのに。
この部屋に私を置いていくのなら、星についてもっと教えてくれれれば良かった。
酒と恨み言をゆっくりと嚥下する。
聞くのは私しかいないから、せめて私が消費してあげないと恨み言達が報われない。
視線を落としたその時、カップ酒のロゴがやけにハッキリ見えて。ふと顔をあげたら、空が異常なほど鮮やかに光っていた。
朝にはまだ早すぎる時間で、そこでけたたましい、周囲の端末の警告音に気付いた。
なんだか終末の予感。
この思いは私が背負っていくには重すぎたから、丁度良い。