喉が痛い。
すぐ声がガラガラとするし、愛想笑いをしようとしたら咳き込んで、すごく無理をして笑ったみたいになってしまった。
冬の冷たい空気は吸うだけで咳の誘因となるため、マフラーに顔を埋めた。
ああ…今まで風邪をひかないよう頑張ったのに、なぜ…
Christmasデートにマスクをするなんて野暮な真似はしたくないんだけどなあ。
折りたたみ傘を差した日、傘を玄関に干しておく。
朝また玄関に来ると、その傘が綺麗に纏められて袋に入っていた。
朝起きると、洗濯物が綺麗に畳んで置かれていた。
体育祭の日、お弁当箱を開いたら、ハロウィン間近だからとハロウィン要素の詰まったキャラクター弁当だった。
どうでもいいような、私にだけちょっと嬉しいような出来事を聞いて欲しくて、「ねえねえ」と声をかけたら、こっちにちゃんと顔を向けてくれた。
そんな愛情を、当然かのように受け取っていました。
そんな愛情が、心に沁みるようになりました。
いつもありがとうの一言が、とても気恥ずかしいことに、気づきました。
中高合わせて5年目、色んなことがあった。
コロナ、友達を失って、一人ぼっちで、留年して、今また一人ぼっち。今までどうやって生きていたのかさえ、分からなくなってしまって。ただ、呼吸して歩いて、存在の意味も分からなくて。
お粗末で、寂しくて、馬鹿で、阿呆で、でも楽しかった気がします。でも頑張っていた気がします。誰よりも、と涙を流した記憶もあります。
こんなでも、多分一生懸命生きていました。
もういいのかな。
もう終わりにしても。
色んな人に迷惑も心配もかけて、かけるけれど、終わりにしていいかな。死にたいって精神異常者しか持たない気持ち?わたし、まともじゃない、それはそうなんだけれど、でもまともに生きたかったのよ。みんなと同じようにみんなと並んで、歩きたかったのよ。
誰も、並んでくれなくなって。
私は、生きる意味も見失いました。
ごめんなさい。ごめんなさい。
あなたが、口紅を塗る姿が好きでした。
手鏡を見ながら、唇をなぞっているあの瞬間、あなたは誰よりも可愛くて。
その塗り直した綺麗な唇を乱してしまうのが嫌で、そっと、触れるようなキスしか出来なかったのを覚えています。
塗り直すのが面倒で、ほんのり色づく程度のリップクリームしか塗っていなかったわたしに、顔色が悪そうに見えると言って、色鮮やかな赤の口紅をつけてくれたことがありましたね。それがとても嬉しくて、口紅を買わずにいました。また、つけて欲しくて。いつもの通りの顔を見るごとに、あなたは不満がっていたけれど。
でも、あなたの瞳に映るわたしは、あなたの口紅の色で血色が良くなっていたでしょう?
あなたは、派手な色が好きだったから。
最近、薄い口紅をよくするようになりましたね。
理由を聞いた時、その薄い肌なじみの良い口紅より、赤くなった耳にわたしは気づいていたけれど、気づかないフリをしました。
しかし、わたしの為でも自分の為でもなく、わたしの知らない誰かの為に口紅を塗る仕草が、好きだったはずのあなたの仕草が、嫌いになってしまって。
でもあなたの傷ついた顔が見たくないから、勝手に消えるわたしを許してください。
あと、1つだけ。
あなたは口紅をたくさん持っていたでしょう。なので、あの時の口紅を一本、いただいていきます。もう、あなたには必要の無いものだと思うから。
ごめんなさい。幸せに。
朝に飲む薬は苦い。
だけど夜に飲む眠剤は甘い。
睡眠というのは、いつも死に1番近くて。
眠剤の後味は罪の味だと思った。
死を囁いてくる死神の声も甘いのだろう。
地に堕ちる時は、甘さが纏わりつくのだ。
甘い。甘い。
地の底はもうすぐ。