私に大切なモノなんてない。
今の生活も、友達も、家族だって、捨てようと思えば今すぐにでも捨てられる。だって当然だけど、自分の人生を生きるのは自分じゃん?最悪でも、私っていう身一つあれば生きられる。
誰だってそう。
私なんかいなくても、あなたは生きていくし、生きていけるんでしょ?
私は一番になれない。だから、誰も一番にしてやらない。
私に大切なモノなんてない。
そんなもの無くても、生きていける。
……寂しさは少々ある。
⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌
『愛』
例えば、他クラスの友達と、同じクラスの友達とが知り合いでない場合、3人揃ってしまうと全員が気まずい思いをする。
ならどうするか。
片方と話しているときは、もう片方を無視しながら廊下を歩くのだ。
いないモノとして扱う。挨拶すらも返さない。だって今はこの子との時間を過ごしているから。
それが続くと、結局他クラスの友人との縁は知らず知らず切れている。
高校時代って、今思えば皆どこかおかしかった。
高校というのは、1学年であんな人数を受け入れながら、生徒たちを狭いワンフロアで過ごさせる。そんな狭いフロアで、週5〜6日毎日通い詰めているのだから、そりゃ毎日色んな人とすれ違う。
仲の良い友人やなんとなく気まずいクラスメイト、名前すら知らない他クラスの生徒まで。
その度、私は無視をするのだ。ひたすら今隣りにいる友人と話して。友人との会話が楽しすぎて、お前らなんか目にはいりませーんって顔をしながら。
名前も知らない人も、1年間顔を通りすがりに見るだけで
"顔見知り"だ。たまに"顔見知り"に成り下がってしまった他クラスの友人なんかもいて。
向こうも、私に無視をする。
あなたなんて知りませんという顔をして。
そうやって、一言も交わしていないのに、無視をし合って距離感を感じて、生きている。
皆、そうなのだ。
高校生の熱しやすく冷めやすいあの関係性。
友達になるのは早くとも、関係は続かなかったりする。
その度皆無視をし合って。
距離間を感じて、心が痛むのに、強がって、そしてまた傷つけ合う。
中学の3年間を過ごしてもそうなるのだ。
悲しいけど、今日も私は無視をする。
⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌
『欠課時数』
壁と床は、その建物が壊れるまで一緒になれないらしいよ。かわいそうだね。
⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌
『どこかで聞いたはなし』
「もう老いや病、怪我に苦しむことはありません。幸せに生きなさい。」
目の前を歩いていた人が突然そう言った。首だけを振り返りながら。
その言葉の意味はなんなのか、
なぜ首だけが動いたのか、
なぜそれを私に言ったのか。
その人は、私に3つの謎を残して消えた。
最初は、ただの変質者だと思って、忘れようとした。
が、その謎を解くのに、そう時間はかからなかった。
「全国の病院で、患者の怪我や病気が突然完治するという事態が起きました。都内の病院内でも混乱が起きています。渋谷区の病院で勤務している医療従事者の方に話を聞きました……」
なんの変哲もない普通の朝だった。
口に入れたパンが溢れる。すぐさま、朝早くに家を出た看護師の母に連絡をとった。この混乱の中、連絡が取れるとは限らなかったが、たまたま母と電話が繋がった。
「ねえ今テレビで…」
「テレビ見たの?!もう今大変よ!大混乱!」
最初に気づいたのは、夜勤をしていた看護師だった。交代の時間となり、着替えをし出口へと向かっていると、ほぼ寝たきりの状態だった老人がウロウロと歩き回っているのを発見した。老人に話を聞くと、昨日までが嘘のように体が軽いという。興奮した様子で話す老人をなだめ、他の病室も見ていくと、早く起きていた老人達も一様に体が軽いと飛び跳ねていた。中には半身不随と診断されていた人もいたという。しばらく時間が経つと、目覚めた老人から小児科の子どもたちまで、ベッドから動ける状態で無い人も、病気や怪我が完治したかのように歩いたり、走ったりしていた。
同僚の看護師と混乱する中、他の病院からも同じ現象が起こっていると電話がきた。
そこに母が通勤してきて、今は元気になった患者達の対応で大忙しだ、と母は鼻息荒く現在の病院の様子を話してくれた。
ここで1つ目の謎の意味が解けた。
謎も何も、あの言葉はそのままの意味だったのだ。ショックを受けた私は、時間も忘れ考え込んだ。きっとしばらくしたら、老いが来なくなったというニュースも報道されるだろう。新たに怪我や病気をしなくなった、とも。
そして、2つ目の謎も解けた。
あの人は神様だったのではないか。変質者ではなくて、あれは神様で、私が聞いたのはお告げだった。
でも、なぜ私に?
この世にはもっと神様からお告げを直接貰えるような、私より徳を積んでいる人がいるだろう。なぜ私に?
いくら考えても答えは出ない。
神様もくじでお告げを下すこともあるだろう。それがたまたま私だったんだ。
ヤケになった私は、無理やり答えを捻り出してその日は眠った。
……本当は気づいている。気づいているんだ。認めたくないだけで。
なぜ私なのか、違う。私しかいないんだ。私以外、いなくなっちゃったんだ。
外は荒野が広がっている。ここは都心だった。全世界を巻き込んだ核戦争は、何もかもを壊して、この美しかった世界を、人類を代償にして、収束した。
たまたま生き残った私を除いて。
もう母は死んだし、病院なんてもう吹き飛んだ。全ては妄想。ただ、一番フィクションのような神様のお告げだけが、リアルだ。あのお告げは、可哀想な私にだけ向けられた、神様からのメッセージ。
何もかもを失った私に、死という幸せすら残してくれないのか。
滅びた世界で一人、叫んだ。
⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌
『我が愛すべき人類、滅ぶな』
がた…がたっ…
涼しい風が頬を撫でる。
眠ってしまったようだ。傾けすぎたのか、首が変な痛みを訴えている。首に手を当てながら、乗り過ごしていないだろうかと車窓を見た。車窓から見える景色は真っ暗で、車内の灯りが僅かばかり照らすのみであった。
ふと、車内を見渡すと私以外誰も乗っていない。相当外れの方まで乗り過ごしてしまったのだろうか。せめて、場所の確認をと思い、車窓に顔を近づけ、じっと見つめる。やはり、暗い。車内の灯りがあったとて、すぐ足元の長く伸びた雑草しか見えなかった。
とにかく、降りよう。次の駅で引き返せばいい。
しかし、待てども待てどもアナウンスは流れない。ただ、時間だけが過ぎていく。
がた…がたっ…
今日の振り返りをして時間を潰す。朝から会社に行き、営業先に出向き、その付近でお昼を食べ、
ああ、そのまま電車にのり帰路につこうと……
私は、昼に電車に乗った。
なぜこんなに暗い?人がいない?
ここはどこだ?
私は、どこに向かっている?
⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌⇌
『蛯原の帰還』