このクソみたいな世界は、このクソな俺を置いて進んでいく。時間、環境、人間。内外で形を変え、気がつけば先にいる。
どいつもこいつも、俺より先を行きやがって。俺より前を歩くな。後ろにいろよ。皆俺より後ろであればいい。
そうすれば、俺だってこんな気持ちにならずにすむだろ?
たばこの煙を吐き出す。今、通りすがりのOLに顔をしかめられた。ごめんて。平日昼間くらい外で吸わせろよ。
「……っはあ〜〜」
こんなクソ人間を下に、真っ白で綺麗な入道雲がやってきた。なんとも嫌な対比だ。これ以上惨めにさせないで欲しい。
きっと、こんな俺を見て雲も笑うに違いない。
眩し過ぎる日差しに思わず目をそらした。
入道雲は、もう消えていた。
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『午後12時30分』
行く宛なんて無かった。
ただ、あの時の言葉を思い出して。
「俺達は!こんなせっっまい町で収まるような人間じゃない!わかるだろ?都会とか、海外とか、とにかくここじゃないどこかへ行くんだよ!きっと、そこが俺たちに相応しい場所だ!」
アイツはあんなこと言っておきながら今ニートだけど。
なんて言いつつ、俺もつい最近まで似たような感じだった。死ねないから惰性で毎日を繰り返しているだけの日々で、結局ほぼ死んでるも同義だった。
これでいいって思ってる自分と、これでいいのかっていう自分とで板挟みで、モヤモヤしてモヤモヤして、自暴自棄になりそうっていう時、目の前で猫が死んだ。
トラックに轢かれて、見るも無惨な姿だった。
それを見て、ああ、俺もいつかああやってあっさり死ぬんだって思うと、居ても立っても居られなくて。
冒険に心踊らせた頃、必要最低限の荷物を詰め込んだ旅行バッグ。
モテたくて買った、やっすい髭剃り機。
宝を集めるがごとく、ずっと貯めていたお年玉貯金。
幼い俺のワクワクが詰まったあれやこれ。
全てを持って、家を出た。
両親にはメモを書き残した。別にスマホもあるんだし、連絡には事足りるだろう。
さあどこへ行こう。
取り敢えず東京行くか。
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『行きずり荘』
容疑者■■とその友人青木の会話記録
2027年 6月26日 居酒屋らいだーにて
■■「元気?」
青木「…へっ、お前■■?!うわ久しぶりだなー!中学以来…だから6年ぶりとか?まじで懐かしー」
■■「はは、はしゃぎ過ぎでしょ。ていうかさ、俺お前にずっと聞きたいことあったんだよ」
青木「なんだよいきなり。あっ…もしかして、校長カツラ事件お前が犯人だったとか…」
■■「最近、強姦事件があったの、知ってる?」
青木「……なにそれ。知らないけど。ここら辺そんな物騒なの?いやー怖いねー」
■■「被害者の子の名前、■■唯っていうんだよ」
青木「……お前と同じ苗字だな。偶然すぎw」
■■「俺の妹だ」
青木「……」
■■「なあ青木。俺、分かってるんだよ」
青木「分かってるって何が」
■■「お前が首謀者なんだろ?大学の後輩使って襲わせて、お前はただ眺めて楽しむ」
青木「何言ってんだよ!俺がそんなことしたとか……。言い掛かりにも程がある!し、証拠とかあんのかよ。無いだろ?」
■■「……しらばっくれるんだな」
青木「しらばっくれるもなにも!俺はやってないって!」
■■「まあまあ落ち着けって!確かに証拠なんてない。ただの俺の推測だ」
青木「なんなんだよさっきから。人を犯人扱いしにきたのかよ?!気分わりぃ。帰る」
■■「でも、証拠なんていらないんだよ。そんな遠回しにじゃなくて、俺は、俺の思うようにやる」
青木「何言って」
(何か刺すような音)
■■「うわこいつ酔ってんなぁ……。仕方ないか。女将さーん、こいつの分も一緒に勘定お願いしていい?」
その後、店内を出た二人は以降目撃情報なし。
監視カメラの映像にも映っておらず、いまだ捜索が続けられている。
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『報告書404』
娘は花が好きだ。
道端に花を見るとすぐに駆け寄って、ニコニコしながら眺めるのだ。
今日も幼稚園の帰り、土手を歩いていた時だった。
「うわあ…きれい」
娘の声に顔を向ける。
そこには見たこともないような美しい花が一輪咲き誇っていた。始めてみたはずなのに、どこか懐かしくて。ああ、彼女に似てるんだ、と高校時代のことを思い出した。
美しくて、なんでも出来る正に才色兼備な友人。なのに、いつも自信がなさそうで。彼女の困ったようなその顔が今でも頭から離れない。
大切な友人で、ただ凄く弱くて。少し目を話していた隙に彼女は…
は、と意識が戻る。すると、娘がよたよたと花に寄っていく姿が見えた。ああ、まずい。何がまずいのかなんて分からないけど、ダメだ。彼女と似てる花を、あの時のようにしたくなかった。
「まっ、待って!」
娘は花を手折ろうとしていた。
「駄目…」
娘が、花に手を触れようとした途端、強い風が吹いた。
余りの強さに目を瞑ってしまった。
目を開けると、娘が尻もちをついている。
「大丈夫?!怪我してない?」
娘は珍しく泣き出さなかった。
その様子を不審に思いながらも、駆け足で近寄る。
「おれちゃった」
娘は花を見ていた。
そこには、根本の方から折れている花があった。風圧で折れてしまったのだろう。
「ねえ、これもちかえってもいい?」
「……どうして?もう折れちゃってるよ?」
「いいの。すぐかれちゃうかもしれないけど、おせわする!」
娘が優しい手付きで花の根を取ろうとしていた。
「あの時も、こうしてあげれば良かったのかな」
「まま、どうしたの?……かなしいの?」
「うん…悲しい…」
どうしようもなく悲しかった。
あの時の私に出来なかったことを娘は出来たのだ。
何も出来なかった私が、今更ながらなんとも薄情で、間抜けな存在に思えて。
「ごめん、ごめんね、椿、ごめんなさい……」
娘は、土手に座り込んでしまった私の背中をひたすら撫でてくれた。あったかい手。
花は露を落とした。
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『諦念』
「子供の頃はこんなに可愛かったのに……」
「今の私も可愛いでしょ?!」
何も考えずに家を出た。
あんな自我もクソもない頃より、メイクも髪もバッチリキメて可愛い服着てる私の方が可愛くない理由is何?!
そりゃちょっと地雷っぽくて、好き嫌い別れる感じなの分かってるけど!
ああムカつく。ムカつく。
馬鹿な私は、ストレスを発散させる方法も知らない。
ひたすら走って、走って、
「こんの、クソババア!!!
今の私がNo.1に決まってるだろー!!」
隣を走るクソガキは笑った。
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『フリルを追いかけて』