行く宛なんて無かった。
ただ、あの時の言葉を思い出して。
「俺達は!こんなせっっまい町で収まるような人間じゃない!わかるだろ?都会とか、海外とか、とにかくここじゃないどこかへ行くんだよ!きっと、そこが俺たちに相応しい場所だ!」
アイツはあんなこと言っておきながら今ニートだけど。
なんて言いつつ、俺もつい最近まで似たような感じだった。死ねないから惰性で毎日を繰り返しているだけの日々で、結局ほぼ死んでるも同義だった。
これでいいって思ってる自分と、これでいいのかっていう自分とで板挟みで、モヤモヤしてモヤモヤして、自暴自棄になりそうっていう時、目の前で猫が死んだ。
トラックに轢かれて、見るも無惨な姿だった。
それを見て、ああ、俺もいつかああやってあっさり死ぬんだって思うと、居ても立っても居られなくて。
冒険に心踊らせた頃、必要最低限の荷物を詰め込んだ旅行バッグ。
モテたくて買った、やっすい髭剃り機。
宝を集めるがごとく、ずっと貯めていたお年玉貯金。
幼い俺のワクワクが詰まったあれやこれ。
全てを持って、家を出た。
両親にはメモを書き残した。別にスマホもあるんだし、連絡には事足りるだろう。
さあどこへ行こう。
取り敢えず東京行くか。
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『行きずり荘』
6/27/2023, 1:19:01 PM