海老body

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6/22/2023, 1:41:59 PM

空を仰ぐと、ただ透き通った白い空。
冬はまだまだ厳しい。私を通り過ぎる冷たい風に、ぼんやりとしていた意識が浮上してくる。
この屋上からの景色が見れなくなると思うと、どうしても寂しくなった。正直、嫌な思い出しかない場所だけれど、そんな場所にも愛着が湧いてしまったようだ。
人間てのは難儀だなあと、思う。
目線を下げると、変な方向を向く死体が一つ。
彼女も同じことを思ったのだろうか。
赤い血を流す彼女は、なんだか寂しそうな顔をしていた。

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『愛を込めて』

4/18/2023, 1:39:51 PM

生まれつき、世界はモノクロだった。
これが、普通ではないと気づいたのは3歳頃。母と一緒に信号待ちをしていたとき、噛み合わない会話から、母が最初に気づいたらしい。
私はその日、色んなことを知った。
私が見ているこの世界は健常者には見えないこと。
この世界の色は三色で、黒、白、グレーと呼ぶこと。
この世界を見ている私は、世間一般に可哀想と言うこと。
確かにそれは生活する上で不便ではあったけれど、この目を治したいと思ったことは、一度も無かった。
誰もが私のことを可哀想だと言った。これは本当は○色なんだよと優しく言った。
けれど、そんな情報などいらない。だって私は、この二色の世界を愛しているから。モノクロで彩ろれた私の世界は、健常者と呼ばれる人類の視界よりも遥かに美しくて、荘厳で、神秘そのものだった。
黒寄りの白。白よりの黒。完全に二色が混ざったような色。私にとっては色んな色があった。
ただ眺めているだけで幸せだった。
私を除くほとんどの人間はこの世界を体感することが出来ないらしい。可哀想だと思う反面、私にしか分からないという優越感があった。
なのに、

「手術は成功しました!」

なのに、親は私の意見なんて無視をして、手術の同意をした。このままでいいと言ったのに。

「貴方は色を知らないからそんなこと言えるのよ。きっと、きっと感動するわ。世界にはたくさんの色があるの。世界はもっとカラフルなのよ」

何を言っても彼女には色を付け知らない哀れな子供にしか見えなかったようだ。

「ね、目を開けてみて。きっと、感動するわ」

母に促され目を開けた。
あの世界が戻ってくると信じて。
目を開けた途端、視界に広がったのはチカチカするほどのたくさんの色。
世界がこんな派手なだけで、汚い色に満ちていたなんて。
ああ、不快、不快、不快。
隣で微笑む医者と母親にとてつもなく苛立ちが湧く。
こんなことなら、治さなくて良かったのに。
私はもうあの世界に戻れないのか。

初めて、死にたいと思った。

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『地獄』



4/18/2023, 7:13:10 AM

「桜散るの早すぎじゃね」
「分かる〜〜雨で散りすぎ。葉桜多すぎ」
「あの桜のモコモコ咲いてる感じso cuteだよね。なのにさ……はあ。桜ってマジ儚すぎ。そゆとこ含めてloveだけど」 
 
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『ルー大柴とJKの関係性について』

4/16/2023, 12:43:24 PM

「私、高校は通信制行くんだー」
修了式の帰り道、彼女はふと思い出したように言った。
「え、初めて、聞いたんだけど……」
「まあそりゃ言ってなかったし」
悪気もなくそう言い放った彼女に苛立ちを覚える。
そんなこと、考えてもいなかった。
そのまま高校に上がれるのに、わざわざ他の学校行くなんて。なんで、という思いが私を支配する。
「やっぱ耳痛くなっちゃうのヤでさ。それ考えたら、このまま高校行くの無理だなーって。……そっちは高校そのまま行くんだね」
「……通信なんて考えてもなかったから」

彼女とは保健室で出会った。
3年の三学期の間だけ、なんとなく教室に行くのが辛くて保健室登校をしていた。基本保健室にはあまり人が来なかったから、安心して日々を過ごすことが出来ていた。
そんなある日のこと。自習をしていたら、保健室の扉が開き彼女が出てきた。
目を惹かれた。
女子としては珍しい高めの背、男子みたいなベリーショートヘア、そして何より、その目の暗さに。
パッと目があって、彼女には目をそらされたけど。
彼女のことをもっと知りたいと思った。

彼女は週に一度くらいしか学校に来なかったけど、来るたびにしつこいと思われるほど声をかけた。
最初は遠慮気味に話していた彼女も、5回目ともなれば気軽に話してくれるようになった。
保健室登校の理由も。

「私ね、元々音がうるさいと耳がキーンってなっちゃうの。でもいつも通り過ごしてたんだけどね、ある日から朝起きれなくなっちゃってさ。それがあまりにも続いたから、母親に病院連れてかれて。そしたらストレスが凄いって。起立性調節障害だって。鬱だって。さらに教室に久しぶりに行ったら、友達はギャルっぽくなっちゃうし。もう散々だよね」

彼女は、明るく話してくれた。
私に気を使ったのかもしれないし、本当にあまり気にしてないのかもしれないし。
私にはその判別はつかなかった。
私も、私のことを話した。
保健室登校してるのは、外的要因のせいではないこと。
私自身が、クラスメイトに対して思う、嫉妬とか羨望とか自分勝手な憎しみとか。この気持ちを整理しきれなかったこと。
彼女は静かに私の話を聞いてくれた。
彼女と比べると、私なんて全然しょうもない理由で保健室登校してるのに。

「大変だったね」

彼女のその優しげな声に、私は救われた気がした。

それから、私達は色んなことを話した。
教室での気まずさとか、勉強についてとか。
傷を舐め合う、といったらちょっと悪い意味に聞こえるかもしれないけど、私達はお互いにお互いのことを話すことで辛さを緩和することができていた。
高校に行っても、二人でいれるなら大丈夫かもしれない。
きっと、彼女はこの依存性のある思いに気づいていたんだ。

「ねえ、私はさ。短い間だったけど、二人で話す時間めっちゃ楽しかったよ。あとなんか、救われたみたいな気持ちがしてさー。私は違う高校行くけどさ、まあまた会おうと思えば会える距離なわけじゃん。ね、それにさ。今日の空こんなキレイ。お互いやってけるよ」

空は曇り。
なんなら雨も降っている。
けど、
「……そうだね。キレイ」
「でしょ?」
彼女なりの気遣いは、あからさま過ぎて最早気遣いでは無かったけど。
「お互い、頑張ろうね」
「うん」

きっと、やってける。

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『快晴』

4/11/2023, 4:51:17 PM

「……ッ…、かッ…」
ある日突然、声が出なくなった。

なんの、前触れもなかった。
普通に起きて、朝ごはん食べて、学校に登校して、家に帰って、夕飯だよと呼ばれて、返事をしようとしたら
声が出なくなって。

その後、異変に気づいた母親に連れられ、病院へ行った。
ストレスによるものだろうと言われた。
ストレスなんて、感じてなかったのに。
わたし、大丈夫だよ?そりゃ辛いことだってあるけど、自分で立ち直れてるんだよ?
母親の申し訳無さそうな目が、痛かった。
あなたのせいじゃないよと言ってあげたいのに。
今の私は視線でしか感情を表せられない。
紙とペンが無いと言葉を伝えられない。
なんて、なんて無力。
目が潤む。
もう、言葉が出なかった。

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『カタチあるもの』

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