「今日で、最後か。寂しくなるな。……なあ覚えてる?俺等が一番最初に出会った時のこと。俺がどうしようもなく酔ってる時も、笑いながら一緒に酒呑んでくれたよな。俺、あの時にお前に、ユキナに惚れたんだよ……。
その笑顔が大好きでさ。
……会えなくなる訳じゃないって分かってるんだけどさ、やっぱどうしようもなく寂しいんだ。遠く行っちゃったらさ、顔見に行くのも難しいだろ?だからさ、あの、最後にキスしてくんね……?」
「だめ!キスはおあずけだよ!!確かに私遠く行っちゃうけど、たいちさんが会いに来ればいい話でしょ?今日から2週間以内に遠くの私に会いに来てくれたら、その時キスしてあげる!一緒にデートしたり、ちょっと高級なとこでご飯食べたりなんかもしてさ。
……だからね、絶対に会いに来てよね!」
「ほ、本当?!じゃあ俺、絶対!絶対!!会いに行くから!待っててな!!」
「ふふ、ありがとう!ユキナ嬉しい。
これからも、ずっと私だけの金ヅルでいて?たいちさん♡」
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『歌舞伎町の変異株』
「日が沈む前にあそこに先に着いた方が勝ちな!」
そうやって、いつも私は置いていかれた。
男のくせに私に手加減とかしないで、ずっとずっと走っていく。
置いてかないでよ。手を引いてよ。
一緒に連れてってよ。
「じゃないと、追いつけない……」
いつかのゴール地点で一人、しゃがみこんだ。
10歳の夏、事故で、私は突き放されて。
惨めに尻もちをついて、文句の一つでも言ってやろうと思って見上げた先には、もういなかった。
隣に立とうと努力をしてきた。
いなくなった後だって、何だか勝ち逃げされたようで悔しくて、努力をひたすらに積み上げた。
足りないまだ足りない。
名前の知らない感情に身を焼かれながら、
そうして、10年がたった。
そして今、あの時のスタート地点に立っている。
目の前に沈みかける夕日に、なんだか急かされている気がして、意味もなく走り出した。
誰もいないこの道を一人で走る、なんて滑稽なんだと頭の隅で思ったけれど。
気づけば、いつかのゴール地点に立っていた。
ああ、懐かしいなあ。何回も何回も二人で走って、結局追いつけなかったなあ。
もっと私が頑張れば、隣にたてたのかなぁ。
押し寄せる思い出と付随してきた思いに、心がぎゅっと潰される。耐えきれなくなって、しゃがみこんだ。
そうだ、隣にたちたかったんだ。
ひたすらに追いつこうと走っていたあの頃も、がむしゃらに意味もなく頑張り続けたあの頃も。
そうか、名前の知らない感情は恋だったのか。
ポロッと流れる。
夕日は一際強く輝いて、沈んだ。
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『裏、汝を殺すであろう』
「ねえ、どこ見て喋ってんの?」
「床」
「目見て話せよ」
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『適当の解釈』
未だに、覚えている。
小学校の林間学校で見た星空。
あまりに綺麗過ぎて、プラネタリウムを見ているような気分になったのを覚えている。
あれから、私も大人になった。
都会の荒波に揉まれ、社会的人間としての自我を失い、家へ帰る道すらなんだか不安気で。
似たような日々を繰り返し、私は今前へと進めているのかと毎日疑問を投げかけるが、答えがでたことは無い。
今日も今日とて、不安気な足取りでなんとか帰路につく。
「……ただいま」
靴は脱ぎ捨て、エコバックからぬるいビールを取り出し、そのまま缶を開ける。
ぬるくてもいい。ただ、リラックスしているという気分に浸りたかった。
夜風に当たりたくて、ベランダに出る。
都会のネオンはきらびやかだけれど、今もどこかの明かりのもとで誰かが残業でもしていると思うと、心が痛い。
都会のネオンなんて、明るいだけ。エモいも何も無い。
そんなとき、ふと思い出した。
「林間学校……。あ、星」
星なんて街灯で見えないから、存在すら忘れていた。
あの時は偽物にしか見えなかったけど、大人になってから見たら、感じ方も変わるだろうか。
「見に行こうかな、星」
今日は上司から嫌な仕事を押し付けられて、悔しかった。同僚から、何気に助け舟も無かったのが、悲しかった。
この日々から、抜け出したかった。
「やっぱ、偽物みたい」
プラネタリウムにしか見えなかったけど、どうしょうもなく涙が溢れて止まらなかった。
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『夜景』
生粋の都会っ子だった。
生まれも東京。育ちも東京。親戚も全員東京近辺に住んでいるから、30を超えた今でも、都会と呼ばれる所から出たことは無かった。
旅行で他県に出たことはあるけど、虫との遭遇がとにかく嫌だったから、基本栄えている場所にしか行かない。九州の辺りの温かい場所、無理。沖縄とかもう論外。
そんなこんなで過ごしてきたこの30ウン年。けど、まだ見ぬ地"田舎"に、少し憧れを抱いていた時もあった。
中学生の時、おじいちゃんが東北の方に住んでいるという友達から、毎回長期休み明けにそのおじいちゃん家の話を聞かされていた。
「本当におじいちゃん家の辺り田舎だからさー、マジで家がポツポツくらいしか無くて。いくら騒いでも大丈夫なくらい?」
「相変わらず雪がもう凄くてさあ、膝くらいまであんの。長靴履いてったのに、中まで雪が入り込んで、それゃもう冷たすぎて地獄だったわw」
「日本母屋って感じの家でね、流石にやっぱボロっちいのよ。でもでも、囲炉裏とかあってさ!実際に見るとやっぱ感動するのよあれが。」
いくら寒いとはいえ田舎だから絶対虫いるし、交通とかそれはもう不便そうだし。だけど、そこには私の知らない景色や体験があって。いいな、なんて柄にも無く思ったけど。
いやでも、やっぱり、やっぱり!虫がいるっていうのが本当にダメ。無理。わざわざ進んで不便なとこに行く必要も無いしね。一生コンクリートジャングルでぬくぬくしよう。そう、思っていたのに。
「……なぜ…」
「おーい、嬢ちゃん。荷物置けたかぁ?早速だけんど、こっち手伝ってくれんね?」
なぜ、こんな九州のど田舎に……
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『田舎的な部屋』