生まれつき、世界はモノクロだった。
これが、普通ではないと気づいたのは3歳頃。母と一緒に信号待ちをしていたとき、噛み合わない会話から、母が最初に気づいたらしい。
私はその日、色んなことを知った。
私が見ているこの世界は健常者には見えないこと。
この世界の色は三色で、黒、白、グレーと呼ぶこと。
この世界を見ている私は、世間一般に可哀想と言うこと。
確かにそれは生活する上で不便ではあったけれど、この目を治したいと思ったことは、一度も無かった。
誰もが私のことを可哀想だと言った。これは本当は○色なんだよと優しく言った。
けれど、そんな情報などいらない。だって私は、この二色の世界を愛しているから。モノクロで彩ろれた私の世界は、健常者と呼ばれる人類の視界よりも遥かに美しくて、荘厳で、神秘そのものだった。
黒寄りの白。白よりの黒。完全に二色が混ざったような色。私にとっては色んな色があった。
ただ眺めているだけで幸せだった。
私を除くほとんどの人間はこの世界を体感することが出来ないらしい。可哀想だと思う反面、私にしか分からないという優越感があった。
なのに、
「手術は成功しました!」
なのに、親は私の意見なんて無視をして、手術の同意をした。このままでいいと言ったのに。
「貴方は色を知らないからそんなこと言えるのよ。きっと、きっと感動するわ。世界にはたくさんの色があるの。世界はもっとカラフルなのよ」
何を言っても彼女には色を付け知らない哀れな子供にしか見えなかったようだ。
「ね、目を開けてみて。きっと、感動するわ」
母に促され目を開けた。
あの世界が戻ってくると信じて。
目を開けた途端、視界に広がったのはチカチカするほどのたくさんの色。
世界がこんな派手なだけで、汚い色に満ちていたなんて。
ああ、不快、不快、不快。
隣で微笑む医者と母親にとてつもなく苛立ちが湧く。
こんなことなら、治さなくて良かったのに。
私はもうあの世界に戻れないのか。
初めて、死にたいと思った。
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『地獄』
4/18/2023, 1:39:51 PM