未だに、覚えている。
小学校の林間学校で見た星空。
あまりに綺麗過ぎて、プラネタリウムを見ているような気分になったのを覚えている。
あれから、私も大人になった。
都会の荒波に揉まれ、社会的人間としての自我を失い、家へ帰る道すらなんだか不安気で。
似たような日々を繰り返し、私は今前へと進めているのかと毎日疑問を投げかけるが、答えがでたことは無い。
今日も今日とて、不安気な足取りでなんとか帰路につく。
「……ただいま」
靴は脱ぎ捨て、エコバックからぬるいビールを取り出し、そのまま缶を開ける。
ぬるくてもいい。ただ、リラックスしているという気分に浸りたかった。
夜風に当たりたくて、ベランダに出る。
都会のネオンはきらびやかだけれど、今もどこかの明かりのもとで誰かが残業でもしていると思うと、心が痛い。
都会のネオンなんて、明るいだけ。エモいも何も無い。
そんなとき、ふと思い出した。
「林間学校……。あ、星」
星なんて街灯で見えないから、存在すら忘れていた。
あの時は偽物にしか見えなかったけど、大人になってから見たら、感じ方も変わるだろうか。
「見に行こうかな、星」
今日は上司から嫌な仕事を押し付けられて、悔しかった。同僚から、何気に助け舟も無かったのが、悲しかった。
この日々から、抜け出したかった。
「やっぱ、偽物みたい」
プラネタリウムにしか見えなかったけど、どうしょうもなく涙が溢れて止まらなかった。
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『夜景』
生粋の都会っ子だった。
生まれも東京。育ちも東京。親戚も全員東京近辺に住んでいるから、30を超えた今でも、都会と呼ばれる所から出たことは無かった。
旅行で他県に出たことはあるけど、虫との遭遇がとにかく嫌だったから、基本栄えている場所にしか行かない。九州の辺りの温かい場所、無理。沖縄とかもう論外。
そんなこんなで過ごしてきたこの30ウン年。けど、まだ見ぬ地"田舎"に、少し憧れを抱いていた時もあった。
中学生の時、おじいちゃんが東北の方に住んでいるという友達から、毎回長期休み明けにそのおじいちゃん家の話を聞かされていた。
「本当におじいちゃん家の辺り田舎だからさー、マジで家がポツポツくらいしか無くて。いくら騒いでも大丈夫なくらい?」
「相変わらず雪がもう凄くてさあ、膝くらいまであんの。長靴履いてったのに、中まで雪が入り込んで、それゃもう冷たすぎて地獄だったわw」
「日本母屋って感じの家でね、流石にやっぱボロっちいのよ。でもでも、囲炉裏とかあってさ!実際に見るとやっぱ感動するのよあれが。」
いくら寒いとはいえ田舎だから絶対虫いるし、交通とかそれはもう不便そうだし。だけど、そこには私の知らない景色や体験があって。いいな、なんて柄にも無く思ったけど。
いやでも、やっぱり、やっぱり!虫がいるっていうのが本当にダメ。無理。わざわざ進んで不便なとこに行く必要も無いしね。一生コンクリートジャングルでぬくぬくしよう。そう、思っていたのに。
「……なぜ…」
「おーい、嬢ちゃん。荷物置けたかぁ?早速だけんど、こっち手伝ってくれんね?」
なぜ、こんな九州のど田舎に……
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『田舎的な部屋』
「明日、必ず提出します」
「今日、ちょっと家にわすれてきちゃって……」
ただただ保身のために募る言葉。
相手の目から伝わる諦めにはもう慣れてる。
まあ、あれだ。俺の時間を大切にするがあまり、宿題をする時間が無くなってしまったってだけだ。
自分の時間を大切にすることが出来たんだから、なんの後悔もない。
呆れられたり、怒られたり……
期待が諦めに変わる瞬間なんて何度も見てきた。
周りからの視線なんて、気にすることない。
ない、ないはず、だったんだ。
なんで俺、傷ついちゃってんの?
宿題を後回しにするっていう行動に、それ相応の結果がついてきただけなのに。
なんで、なんで目潤んでるんだろ。
後悔するくらいだったら、宿題やればよかったのにな。
母親からの冷たい言葉だって、そうだ。自分が周りと同じことを出来ていないからこその言葉であって。
別に、皆と同じ様に出来てればこんなこと、言われなかった。
先生に怒られんのも当然だし?友達に呆れられんのも当然だし?父親に殴られのも当然だし。
……前にも同じことした気がする。
あれ、これ何回目?
俺、自分の時間大切にしたんだよな。
それで満足したよな。
結果、俺傷ついてるよな。
何度も何度も繰り返して、
ってあれ、俺の大切が大切にしてたものって何だったんだ?
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『二流の終わり方』