だいぶ少年らしくはなったと言っても、まだ13歳。
成長しきっていない僕の手は血で塗れていた。
必死に掴んで走ったから気づかなかったけど、華奢な君の手も汚れた血で染まっていた。
土手沿いの薮の中で、震えながら必死に君を抱きしめていた。僕らは声を押し殺して泣いた。
君から相談を受けていた僕は、夜にノックもせず君の家に入り込んだ。
仕事に出ていてお母さんはいない。
君の部屋のドアが細く開いていて、煌々と電気が照らしている下で、セーラー服姿のままで君は養父に覆い被さられていた。
怒りで脳が熱くなるほど僕は冷静だった。静かに近づき思いっきり包丁を振りかざし、養父の右の背中に突き刺した。何度も何度も突き刺した。
僕らは汚れた血で染まった手を繋ぎ、交番へ向かった。
題:世界の終わりに君と
看護学校の学費と生活費を貯蓄するため、事務をしながら、休日前の夜や休みの日はデリバリーヘルスの仕事をしていた。
私は不思議と感情を入れることなく、淡々とこなす事が出来る方だった。
それなりの性の悩みを抱えている人も多かったけど、一定の欲求を満たせば大抵の人は満足していた。
坂井さんは既婚者だった。
「妻の事は大好きだけど、子どもが出来てから抱く事が出来なくなった。興奮すると罪悪感に似た感情になる。何故だか自分でも分からない」そう相談された。
勿論、私にも答えは分からない。
だけど、これだけは言える。
「そうかもしれない。でもきっと、奥さんはあなたに抱いて欲しいと思ってる。それは最後までという意味ではなくて、ただ抱きしめてほしい、と」
私達は裸のまま話続けた。
裸の人間は、心までも裸になりたいと欲求するのかもしれない。
題:誰にも言えない秘密
小説や文章は。
沢山の人に、分母の大きな整数の人達に届けば、意味や大義が生まれるのかも知れない。
それでも。
私は。マイノリティであっても。
君並びにあなたに届けばいいと思っている。
今。涙している君並びにあなた、の。
代弁者であり、且つ、共有者でありたい。
私は今。
たくさんの涙雨を想像する。
題:梅雨
正直に言うと。
彼が欲しかったんじゃないの。
あなたの「もの」が、欲しかった。
何でも持ってるあなたが羨ましかった。
あなたのキラキラした日常のインスタは、毎日チェックしてた。
始めは「好き」だけだったのに、いつの間にか「あなたになりたい」とさえ思うようになった。
真似をしていくうちに「あなたが持っているもの全て」が欲しくて欲しくてたまらなくなった。
だから、あなたの彼に近づいた。
簡単に手に入りそうになったその時。
「あれ、あなたが大切にしているものは、こんなに安っぽいものなの?」って思ってしまい、一気に冷めた。
私は何者でもないことに気付いた。
明日、自分で選んだ自分の靴を買おうと思う。
題:「ごめんね」
はっと目が覚める。
いつに無くぐっすりと眠り、周りが明るく感じた。
時計を見ると、8時過ぎている。
驚きのあまり全身が総毛立つ。完全なる遅刻だ。
冷や汗を額に滲ませ、上司への言い訳を考える。
こういった時、不思議と動作は緩慢だ。
気持ちを落ち着かせる為、ひとまずコーヒーを片手にTVをつけた。
いつもと違う番組。
…日曜日だった。
題:天獄と地獄