僕はもともと、とても走るのが好きで、小学一年の頃から陸上クラブに入るほどだった。
9歳になったばかりの時から急に、歩けないほどの激痛を足の付け根に感じ始めた。
母が近くの整形外科に連れてってくれたが、受診してすぐに隣の県の大きな大学病院に行くよう勧められた。
ペルテス病、小児の特発性大腿骨頭壊死症と診断された。当時、僕はよく分かっていなかったが、母の動揺する姿を見て大変な病気になってしまったのだと感じた。
僕はそこから、友達にも挨拶出来ないまま、一年病院で寝たきりの生活を送ることとなった。
病室の窓から、同じ歳の頃の声が聞こえるとつい見てしまい、羨ましく思った。正直に、なぜ僕だけがこんな病気にならないといけないのか、母が帰ってしまった夜は寂しくて、何度も声を殺して泣いた。
2週間に一度は、妹や兄も父と一緒にお見舞いに来てくれていた。手術も無事終わり、少しずつリハビリも開始されて半年が経った頃、ふと、妹の頭にハゲがあることに気がついた。
それ…と指で指した瞬間、妹は手で隠した。
そうだった。母は週の半分は僕に付き添い、病院に寝泊まりしていたのだ。
夜、泣いていたのは、僕だけでは無かった。
兄も、強がってはいるが辛い時もあっただろう。
僕は、早く病気を治して退院しないと。そう誓った。
題:失われた時間
立派な職業で、それなりの地位、収入を手に入れているあなたは、私の胸の中で眠ることが好きだった。
私も、あなたの髪を撫でながら眠ることが好きだった。
外の顔と私の前での顔が、全く違っていて。
時折おかしくて、そっと微笑んでいた。
大人とは?chatgptに聞いてみた。
「大人とは、一般的には成熟し責任を持つことができる人のことを指します。それは年齢だけでなく、行動や考え方、社会的な責任感なども含まれます」
年齢は関係無さそう。
今はもう、あなたは別の大切な人を見つけたみたいだけど。
やっぱり私は、あなたみたいに、私にだけ見せる顔がある人を探してしまう。
題:子供のままで
「俺が10歳の時さ…」
「なに?」
「あにき…」
「うん」
「勝手に俺のプリン食べただろ」
「…忘れろよ」
題:忘れられない、いつまでも
2023年5月9日。
昨年の私は、今の私を想像だに出来なかっただろう。
あの頃は全てうまいくと勘違いしていた。
挫折、虚無、喪失を味わった。
2024年5月9日。
来年の私は、今のこの感情をどう感じているだろうか。
人生の肥やしになっただろうか。
それでも、時は進む。
2065年5月9日。
振り返るとなんて、ちっぽけなことだったんだろう。
ひとまず、美味しいご飯食べたらどうにかなるよ。
題:一年後
けたたましいアラート音が至る所で鳴っている。
残り15分で地球に、しかも日本に向かって直径9マイル(約15キロメートル)の巨大隕石が衝突するらしい。
道路やオフィスに立ち尽くす人。必死に誰かに電話をかけようとする人。地下に走る人。怒る人、泣く人。怒号、クラクション。警察や救急のサイレン。
私は地球最後の日にむしろ冷静だった。
ニュースやラジオでは、必死に頑丈な建物の中や地下に身を隠すようアナウンスが流れる。内心、そんなので助かるのか、と疑問に思いながら刻々と時間は過ぎていく。
私は一応壁を背にして膝を抱えて座った。
最期に妹と唯一の親友にメールを送る。
窓から覗く空を見上げる。いつも通りの青空だった。
ダメ元で、スマホの中の着信履歴やメール送信の履歴を漁る。届かないとしても、人生で一番愛した人に、ありがとうとだけ伝えたかった。
全てを削除したと思っていたのに、意外にも連絡先に、捨てアカ用のメアドが残っていた。
男性の声のアラート音が急かすように残りの分数を伝えてくる。
私はゆっくりとメールを送った。
同時に、衝撃波が大地を駆け巡った。
建物のコンクリートやガラス、塵や岩、石が粉塵となって大気に舞い上がり、摩擦による稲妻や火災が発生。太陽光が遮断され、硫酸の雨が降り注いだ。
隕石はクレーターを作りながら、巨大津波を引き起こし、地球全体を覆う。
世界は終わった。
「あなたとの思い出が私を支えてくれていた。ありがとう。いつか、また会いたい」
題:明日世界が終わるなら