僕はもともと、とても走るのが好きで、小学一年の頃から陸上クラブに入るほどだった。
9歳になったばかりの時から急に、歩けないほどの激痛を足の付け根に感じ始めた。
母が近くの整形外科に連れてってくれたが、受診してすぐに隣の県の大きな大学病院に行くよう勧められた。
ペルテス病、小児の特発性大腿骨頭壊死症と診断された。当時、僕はよく分かっていなかったが、母の動揺する姿を見て大変な病気になってしまったのだと感じた。
僕はそこから、友達にも挨拶出来ないまま、一年病院で寝たきりの生活を送ることとなった。
病室の窓から、同じ歳の頃の声が聞こえるとつい見てしまい、羨ましく思った。正直に、なぜ僕だけがこんな病気にならないといけないのか、母が帰ってしまった夜は寂しくて、何度も声を殺して泣いた。
2週間に一度は、妹や兄も父と一緒にお見舞いに来てくれていた。手術も無事終わり、少しずつリハビリも開始されて半年が経った頃、ふと、妹の頭にハゲがあることに気がついた。
それ…と指で指した瞬間、妹は手で隠した。
そうだった。母は週の半分は僕に付き添い、病院に寝泊まりしていたのだ。
夜、泣いていたのは、僕だけでは無かった。
兄も、強がってはいるが辛い時もあっただろう。
僕は、早く病気を治して退院しないと。そう誓った。
題:失われた時間
5/13/2024, 4:33:03 PM