私は病院のベッドの上にいる。
84年、生きてきた。
やはり年齢には敵わないようで、私の体も病気に冒されている。
もう先は長くないのが、医師の見解だ。
実際、私の体はたくさんの管で繋がれており、ようやく生きている状態。
84年…色々あった。
幼い頃は、戦争もあったから貧しかったけど、家族みんなで支え合いながら暮らしていた。
結婚はお見合いだったけど、誠実で素敵な男性とも結婚できた。
子どもも二人できた。
幸せだった…
夫には先立たれてしまったけど、娘と息子は可愛い孫を見せてくれた。
3人の孫もとても可愛い。
もう喋れなくなった私だけど、意識はあり、周りの声はちゃんと聞こえている。
娘や息子、孫たちが感謝の言葉を伝えてくれていたり、親孝行できなかったと泣いている。
「泣かないでおくれ、私はとても幸せな人生だったよ。お礼を言うのは私の方さ。ありがとう、みんな。私は安心して逝くことができるよ。」
「ハッピーエンド」
「初めて人に話すわ。
私は人を殺めた。
きっかけ?そんなの些細なことよ。
ただ、人を殺してみたかった。
人が絶望しながら死んでいく姿を見たかったから。
最低?知ってる。
でも、この気持ちは誰にも抑えられないよ。
あなたには分からないでしょうね…ふふふ。
なによ、そんなに睨まないでよ。
私は完全に遂行したじゃないか。
だから、未解決事件として連日報道されているのよ。
私が捕まるわけないわ。
今日もまた私は一般人として生きるの。
捕まるわけないもの。
でもね、やっぱり人に見つめられると怖いのよ。」
「見つめられると」
心に決めた人がいた。
彼と私は、赤ちゃんの頃から一緒にいた幼馴染。
幼い頃は大きくなったら結婚しよーなんて約束もした仲だ。
だが、彼は私たちが小学3年生の頃に転校してしまった。
「必ず、迎えに来るから」
そう約束して、彼は遠くへ引っ越して行った。
ある時までは手紙や年賀状でやり取りしていたが、いつの間にか連絡を取り合うこともなくなってしまった。
彼は私のことも忘れてしまっただろう。
そう思いながら日々を過ごしていた。
高校生になって彼氏を作ってみたりして。
でもやっぱり幼馴染のことが忘れられず、長続きはしなかった。
大学進学をきっかけに、私は上京した。
新しい環境での新生活。
私はいつしか彼のことを忘れてしまっていた。
毎日勉強して、バイトして、友達と遊んで、時が来てからは就活して…
お陰で、いい就職先も見つかった。
忙しくも充実した大学生活は一瞬で終わったように感じた。
卒業式の帰り、駅に向かって歩いていると、懐かしい姿が見えた。
「迎えに来たよ、卒業おめでとう」
そういう彼の手には大きな花束。
「もう…遅いよ…」
私は泣いていたと思う。
私の心は、やっぱり彼のことを忘れられずにいたんだ。
私と彼は手を繋いで駅のホームへ向かった。
「My Heart」
友達が羨ましい。
友達の旦那はよく稼いできてくれるみたい。
うちの旦那の稼ぎは低いから、私も働かなきゃいけない。
友達は専業主婦。
私も専業主婦がしたくて結婚したのに。
旦那はよく家事もしてくれて、仕事が終わったらまっすぐ帰ってきたり、私が行きたいと言った場所も覚えてくれてて連れて行ってくれるし、誕生日や結婚記念日も忘れずに一途に愛してくれている。
でも、友達が羨ましい。
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友人が羨ましい。
私は結婚しても仕事したかったのに、旦那に頼まれて仕方なく主婦をしている。
稼ぎはいい夫だから、生活には困らない。
夫は主婦なんだからって家事育児は全て私任せ。
そして何より、私の稼ぎがなくて簡単に出ていけないのを良いことに不倫をしているようだ。もう何年も一緒に夕食を食べていない。結婚記念日はおろか、誕生日もずっとお祝いしてくれていない。
だから、友人が羨ましい。
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私たちって、ないものねだりね。
なんて、会話をしながらカフェでコーヒーを飲んだ休日の午後。
「ないものねだり」
私はすぐ周りの人に合わせてしまう。
私の周りは、いわゆるギャルの子が多くて、変わったメイクをするのが私たちの間での流行り。
変わったメイクをしてみんなで街へ遊びに行くのだ。
私は変わったメイクが好きではないし、なんでもシンプルなものが好きなのに、ハブられるのが怖くてつい周りに合わせてしまう。
「ほら、何見てるの?新色出てるよ!早く買って行こう?」
友達にそう声かけられ、また好きでもない変な色の口紅を買ってしまった。
なんてお金の無駄遣いなんだろう。
ハッキリ好きじゃないって言えれば、楽なのにな…。
それでハブられるなら、それまでの関係だったと思えばいいって言われればそうだし、そんなこと分かってるけど、独りは怖い。
もう、あんな思いはしたくないから。
私は独りで過ごした幼い頃を思い出し、友達と遊びに行く為に変わったメイクをするのだった。
「好きじゃないのに」