あーあ、最悪。
華の金曜日なのに、なんで残業してるんだろう。
飲んで帰ろうと思ったのに…
目の前にある少し減った仕事を見つめながらそう呟く。
「僕もですよ…上司、僕らにだけ仕事押し付けて…」
驚いた。
他にも人がいたなんて。
しかも、あんまり話したことない後輩の地味男くん…
「あっ…あぁ、いたんだ。ごめんごめん。
お互い早いところ終わらせて、早く帰ろうね」
そう言って、私と地味男くんはPCに向き合う。
「はぁーー!やっと終わったー!」
「先輩、お疲れ様です。」
そう言って地味男くんは暖かいコーヒーを差し出してくれた。
その優しさに泣きそうになったが、終電の時間が過ぎてしまい、タクシーで帰らないといけない現実に直面し、焦る。
「先輩?終電…大丈夫ですか?」
地味男くん…私の心が読めるのか?!
と思いつつ、私は既に終電は行ってしまったことを伝える。
「あの…良かったら、僕の家来ませんか?すぐ近くなんです。あっ!いや!!誤解しないでください!僕、姉と二人暮らしで…姉は気さくな人だし、女性の部屋なら先輩も安心かなって思って…」
焦る地味男くん、ちょっと可愛い。と思ったのは心の中にしまい、
「お姉さんに悪いけど…お願い…したいかも…」
金欠だった私には大変助かるお誘い。
地味男くんは、お姉さんにすぐ連絡を取ってくれて、無事に地味男くんの家に行くことになった。
帰り道はとても楽しくて、地味男くんのお姉さんも本当に気さくな人で楽しい夜を過ごした。
こんなに楽しい夜を過ごせるなら、地味男くんと二人ぼっちの残業も悪くない…かも。
「二人ぼっち」
「今までありがとう。幸せになってね」
彼女は目にいっぱいの涙を浮かべながら小さくそう呟く。
甘えん坊で泣き虫な彼女。
いつもならすぐに抱きしめるのに、もうできない。
元彼女は、後ろを向き駅へと歩いていく。
どんどん小さくなる背中を見ることしかできなかった。
僕の海外赴任さえ無ければ、こうなることはなかったのに。
断れば良かったのかな。
後悔ばかりが押し寄せる。
でも元彼女もこの地でやりたいことがある。
僕も海外の地でやりたいことがあった。
僕も帰ろう。
帰って、引越の準備をしなくては。
でも、今日だけは許してほしい。
家に着いて、僕は一晩中泣き明かした。
「今日だけ許して」
海を散歩してると、少し薄汚れたガラスの瓶を見つけた。
汚いなぁと思いつつ、気になった私はガラスの瓶を拾ってみた。
中には、1枚の紙が入っている。
「見知らぬ誰かさんへ
この手紙を見つけてくれてありがとう。
毎日病院で暇だから、この手紙を書いています。
僕は病気でもう長くはないみたい。
このまま死んでいくのはいやだ。
死にたくない…
この手紙を読んでくれた誰かさん、
僕と一緒に逝こうよ」
私は思わず紙を投げ捨てた。
もう、なんなの…
せっかく気分よく散歩してたのに。
その日からだ。
視線を感じるようになったのは。
最初は少しの違和感だったのが、今はすぐ近くに感じる。
今も目の前に…
いやだ…死にたくない……よ………
「誰か」
はぁ…なんで私はこんなことしてるんだろう。
フリーターで毎日ギリギリの生活。
もう夢を諦める頃なのかな。
私は、子供の頃からアイドルになることを夢見てきた。
昔から可愛いねとたくさんの人に褒められ、高校の時には文化祭のミスコンで賞も取った。
可愛くなる努力も必死に続けてきた。
太らないように食事にも気を付けてきた。
でも、現実は厳しくて。
せっかく東京に出てきたのに、意味ないじゃん。
子供の頃の夢を叶えるのは楽じゃない。
もう、諦める時なのかな。
でも、諦めたくないの。
次のオーデションこそは………
「子供の頃の夢」
なんで私を置いていくの。
もう何年も連れ添ってきたのに。
実家を出る時だって、無理して選んだ家。
全部君のためだった。
でも、仕方ないのかな。
もう17歳になった愛猫の君。
まだ一緒にいたかった。
どこにも行かないで、これからもそばにいてよ…
「どこにも行かないで」