都会の夜は光が多くて眩しい。
道路を駆ける車や、立ち並ぶ街灯、目立ちたがり屋の看板。
何も手を加えなければ真っ暗な筈なんだ、夜というものは。
自然に明るいものなんて月と星くらいだろう?
そんな暗さを僕らは無理やり明るくしているんだ。
そう、「無理矢理」ね。
どれだけ心が沈もうとも、そんなことお構いなしに顔を合わせに来るこの世界。
空元気だとしても、無理にでも明るくしていないとそのどす黒いものはいとも簡単に僕らを呑み込んでしまうんだ。
だから、明るくしていないと。
そう、「無理矢理」ね。
〝夜景〟
色とりどりの花々が、辺り一面で鮮やかに揺れる。
そんな空間にただ佇む一人の自分。
稀に見る、僕の夢だ。
何処からか不思議な音が聞こえる。
この音を言葉で表現することはどうも難しい。
惹き込まれるような落ち着くような、だけど少し怖いような。
美しい音だ。
果てしなく続く花の絨毯。
きっとどれだけ歩いても、同じ景色が広がっているのだろう。
甘くて苦い香りが、柔らかな風に乗りふわりと届いた。
あぁ、そろそろ帰る時間か。
次に此処に来られるのはいつだろう。
そう思い耽りながら、僕は終わりのない先を眺めるのであった。
〝花畑〟
たくさんの雨粒が窓を打ち付ける。
ここまで激しい雨はいつ振りだろうか。
豪雨だからといって会社や学校が休みになるわけではないから、雨が降っているということ以外は普通の日常だ。
オフィス内の空気はまるでこの薄暗い空のようである。
ここにいる皆んな、口には出さないが毎日毎日必死にしがみついて立っているのだ。
歯を食いしばって耐えて耐える。生きるために。
苦しいとか、しんどいとか、そういった感情はある程度麻痺しているみたいだ。
子供のように声を上げて泣きじゃくれば楽になるのだろうか。
残念なことにどうやら歳を重ねると、涙というものを何処かに置いてきてしまうらしい。
そんな愚かで滑稽な人間を愛おしむかのように。
僕らの代わりに空は泣いた。
〝空が泣く〟
知っていたよ、君の隣は僕ではないなんてこと。
それに目を合わさないようにしていた。
気づかないふりをしていた、気づきたくなかった。
あぁ、でもとうとうその日が来てしまったんだね。
目を合わさないといけない日が。
「大事な話があるの」
普段は文末に置かれる可愛らしい絵文字も、今日はいない。
「うん」
同じ二文字なのに、どうしてもっと「好き」を贈れなかったのだろう。
君からの僕へのLINEは温かくて優しい恋文だったのだと、遅すぎる感情はただ心を彷徨うだけだった。
〝君からのLINE〟
別に自分の命に価値があると思っていないし、惜しくもない。
死ぬ時は死ぬよな、というスタンスで生きている。
平均寿命から考えると、僕の人生はまだまだ長いみたいだ。
もういいんだけどな、ここで終わりでも。
年金制度とかその他諸々の問題で、未来の世界に期待なんてものは微塵もないしね。
だけど、君はそんな僕の世界を照らしてくれたんだ。
初めて君の声を耳にした時の衝撃は未だに忘れられない。
別に自分の命がこの世に不可欠だとは思っていない。
それでも、君が紡ぐ言葉や奏でる音に触れていたいから。
僕は生きようと思う。
これからの君を知らないまま、この世を去るのはとても惜しく感じたんだ。
〝命が燃え尽きるまで〟