そろそろご飯の時間だね、何食べる?
「 」
お風呂はご飯の後、しばらくしたら入ろうね。
「 」
眠たかったら寝てても良いし、食べ足りなければおやつあげるからね。
「 」
欲しいものがあるなら極力叶えてあげたいと思うよ。
「 」
他に僕に出来ることがあるならなんでも言ってね。
「 」
え?出かけたいの?
良いけど、こないだみたいにはぐれちゃ駄目だよ。
探すの大変だったんだから。
今度はちゃんと首輪つけててね。
「 」
戻りたい?ここが君の家なんだよ。
「 」
だめだめ、君もそろそろこの家に慣れてくれなきゃ。
ほら、大好きなおやつ買ってきたから。ね?
そう言って、君に手を伸ばす。
「フシャーッ!」
同時に思いっきり引っかかれた右手。
あの日ずぶ濡れで道路に横たわってた君を抱えて病院に走ってここまでお世話したのは僕なんだぞ…!
もうちょっと懐いてくれたって良いじゃないか!
じろりと非難の目を向けるも“君”は何処吹く風。
これ以上構っても仕方ないと気持ちを切り替え、ご飯を用意しに台所へ向かう。
途端にゴロゴロと足元に擦り寄ってくる“君”。
上目遣いに愛らしい声で一言。
「にゃーん」
くっ……可愛い……っ!!
もう…もう二度と“猫”なんて助けるもんか…!!!
#もう二度と
いつか君と並んで見た夕焼け
茜色に染まる水平線
ゆっくりと沈んでいく夕日とキラキラ輝く水面を
いつまでもいつまでも眺めていた君の横顔を
夕焼けを見ると思い出すのです
あの夕焼けが、また見たいと
#君と見た景色
“あの...すみません、もしかして...◯◯さんですか?”
“!...そうですそうです!!もしかして◯◯さん...?!”
“そうです!あぁ良かった!!会いたかったです〜!!”
“私もです!!えぇ〜嬉しい...っ!!!”
...恐らく『オフ会』というやつだろうか。
カフェの前で嬉しそうにキャッキャと戯れる彼女たちが眩しくて、煩わしくて、そしてほんの少しだけ羨ましく思えて、遮断するようにイヤホンを耳につけた。
会いたいと思える相手がこの世界のどこかに居るだけで
それは、とても幸せな事なのだろう
#叶わぬ夢
叶わないならせめて夢の中だけでも。
色褪せた虚空に価値を見出せず目を閉じた
聞き飽きた音楽を脳に流し込んで
ノイズ混じりの日常と無理矢理紛らせた気は
忘れてくれるなと今日も責め立ててくる
楽しいと寂しい、嬉しいと悲しいは紙一重
彼の止まった時間は動かない
ひらり、はらりと舞う蝶々を追いかけて
ひらり、はらりと落ちた花弁を見つめて
大人にも子供にもなれないまま
一体どんな顔をすれば良いのだろうか
#ひらり
終電が過ぎて静寂に包まれた駅のホーム
見上げれば満点の星空が広がっていた
届かないと分かっていながら
目に入った一筋の光に思わず手を伸ばす
それはあまりにも一瞬で
それはあまりにも遠すぎて
願いを口にする間もなく
ただ見ていることしか出来ない
子どもの頃必死に唱えた願いだって
結局叶っちゃいないけれど
あの日夜空を一緒に見上げた思い出は
今も鮮明に残っている
“さよなら、またいつか”
叶わない願いを口にすると
また一つ星が流れて消えた
あぁ、あれはきっと君に違いない
#夜空を駆ける