太陽が水平線から顔を出した。
彼女の顔が陽光に照らされて眩しい。
そうでなくても、あなたは眩しいのに。
「カナコは、どうしたい?」
彼女は聞くけど、そんなの決まってる。
「あなたにまかせるわ」
分かった、と彼女は上機嫌そうに頷く。
「じゃあ私、オーディション、受けるわ」
あなたの分まで、頑張るから。
彼女は声高々に言った。
私には……おそらく彼女にも、未来は見えていた。
彼女は、すぐさま脚光を浴びて有名な女優になる。
怪我で主演辞退を余儀なくされた私を見捨てて。
未来は、見えていた。
だから……
お願い。
もうこれ以上、眩しくならないで。
彼女の背中を、ありったけの憎しみを込めて前に押し出した。
今年はおっきな小説の賞をとりたい。
天真爛漫な彼女は私の気持ちを考えもせずに、今年の抱負を述べた。
何をほざいてるのかしら。まだ十万字も書いたことないくせに。口だけは達者ね。
心の中で侮辱していた。
私よりさきにあの子がデビューするなんて。
そんな馬鹿な話ない。
こちとら15年も書いてるんだぞ。
噛む爪もなくなって、肉まで到達していた。
そんなこと、あってたまるか。
そんなこと……。
*
*
*
半年後。
彼女は新人賞をとった。
私は楽になるお薬の準備を始めた。
明けましておめでとう。
おばあちゃんにとびっきりの笑顔で言った。
はいはい、おめでとう。
そういっておばあちゃんはぼくにぽち袋を渡してくれた。
中身を確認すると1000円。
小学生を舐めてるの?
思いっきり目の前で破り捨てて泣いてやった。
ぼくはまだまだ可愛い孫。
そうでしょ?おばあちゃん。
唖然として立ち尽くす彼女を挑発するように、泣き声を大きくしてゆく。
良いお年を。
マミちゃんに言った。
彼女はくしゃっと顔を歪めた。
良いお年を。
彼女も呼応するように言った。彼女のマフラーはおろしたてで真っ白。
許せなかった。
彼女の首にナイフを差し込んだ。
許せなかった。
彼は、私のものだったのに。
あんたなんかに奪われてしまった。
あんたなんかに良い年なんか、来るわけないじゃん。
「ざまぁ」
彼女の血はぬくかった。
もうすぐ、今年が終わる。
「今年は素敵な一年でしたね」
テレビの司会が陽気な口調で言った。
「ほんと!」
「最高の一年でした!」
ひな壇の芸人やアイドル達が口々に叫ぶ。
何が素敵な一年だ。
この芸人は相方が首を括って死んだ。原因は分からないが一部の噂では台本が仕上がっていないとパワハラを受けていたという。
このアイドルは不貞をはたらいた上三角関係も作っていたとゴシップ記事を騒がせていた。
この司会だって同じだ。過去の女優へのセクハラが問題になって今ネットで大炎上中だ。
最低な一年じゃないか。
「それでは、良いお年を」
司会はそう言った後、ポケットからぎらりと光るものを取り出し、さっと斜めに引いた。
鮮血。
血飛沫がレンズを染める。
私はその光景はぼんやりと見ながらニヒルな笑みを湛えた。
最後の最後に。
テレビ史上最大級の放送事故だ。
素敵な一年でした。ありがとう。