「海に行かない?」
昼休み。
一つの机を二人で挟んで、弁当を食べていると
君は突然そう言った。
「私は良いけど、いいの?サボったことないじゃん」
彼女は私とは違ってとても優れた人だった。
男女問わず楽しそうに話すし、成績も良い。
規則もよく守り、所謂優等生というに相応しい人だった。
「いいって言ったね。じゃあ行こ。今から」
君が急かすようにそう言うものだから
私たちはそそくさと荷物を片付け
先生の目を縫いながら、昼の校舎を抜け出した。
「寒いね」
暖かくなったとはいえ、まだ春と言うには早かった。
黒ずんでいるような、白くくすんでいるよな海は
周囲の音をかき消し、その広大な存在感を示した。
彼女は何も発しなかった。
「……曇ってると、空と海の境目って曖昧になるよね」
だからなんだ、と言われれば返す言葉がないが
とりあえず話してみた。
だってちょっと不気味になる程、君は何も喋らない。
「……疲れた?」
「……うん」
口角だけ上がった顔を崩さないまま
君は少し頷いた。
太陽が見える訳でも、雨が降るわけでもない空は
静かに波の音を聞いていた。
こんなことをする年じゃない
そんなことを考えながらも
いつの間にか私はブランコに座っていた
木の葉が重なる音だけが流れる
真昼間の公園
地面に足先が着きながらも
ゆらゆら自然と揺られる感覚は
コンビニで適当に買ったホットスナックに
少し特別感を与えた
幼い頃
私は親と公園で遊んだ後
コンビニに寄ることが多かった
会計をする親の横に立ちながら
横にあったホットスナックをただ見上げていたのを
ふと思い出す
性格的に強請ることはなかったが
当時の私にとってはとても魅力的なものだった
だが、今は当たり前の物だ
手作りをするのも面倒だからいつもと同じものを買う
無機質なサイクルかもしれないが
それもよく考えれば
小さい頃のちょっとした夢だった
そういえばブランコも
乗りたかったのに言わなかったんだっけ
今日食べたホットスナックは
いつもより少し味が分かる気がした
感覚はとうの昔に無くなっていた。
手を擦り合わせても
それが自分の手だとは認識出来なかった。
「まだ起きてる?」
彼女の腕が少し動いたように見えた。
ここから見える景色は
これ以上に無いほど白く、荒く、我々を突き刺している。
「 」
ああ、肺がダメになってしまった。
ふと彼女の方へ顔を傾けると
彼女も少しこちらに傾きながら
分厚い手袋を着けた手をこちらに倒してきた。
人気もない、音も聞こえない雪山。
我々が白い衣に包まれても
その手とこの身体の間に挟まることはなかった。
私は幸せ者だった。
さいごの温もり
あと少しだ
あと少しだって
何回言うんだ
もう足も棒みたいで
息も絶え絶えで
もうやめようって言おうとした
でも
君のそんな顔を見たら
そんな声をかけられたら
あと一歩だけならって
幾度も思ってしまうんだ
深夜に床に倒れ込んでからどれほど経っただろうか。ふと、重い頭を窓の方に向けて見ると、カーテンと壁の隙間からは、黄色の柔い光が溢れ出ていた。
寝てるのか起きてるのかも分からない時間は、長いのか短いのかも分からなかった。
僅かながら意識がはっきりしてきたところで、私はなんとなくカーテンを開けた。
眩しい。
様々な障害物に妨げられながらも、太陽は私の目を一直線に刺してきた。
太陽が昇ると同時に鳥が朝の挨拶をする。さっきまでは闇と化していたであろう街並みは、それを忘れさせるかのように太陽の光を反射していた。
強く光り輝く太陽は、一日の始まりを知らせる。
今日も終わらない今日が始まった。