わたしにはすがるものがなかった。
父は過保護で過干渉で過支配的で、お酒を飲んでは兄やわたしにDVを振るったし、母はワーカーホリック教師で、実の子よりも生徒さん達が大事で、わたし達に対してはネグレクトというか、興味がなかった感じだった。兄はわたしの成績が良いせいで自分に父の八つ当たりが向くのだと思っていたようだったし、わたしは家に居場所がなかった。
たったひとつの希望があるとすれば、空想の中だけだった。空想の中ではお友達が居ても怒られなかった。空想のお友達と一緒に遊んで、泣き言を言って、救われていた。
でもそれも許されなくなって、わたしは全ての希望を失った。
【たったひとつの希望】
僕は砂漠をさすらっていた。
ここは夢の中だ。でも照りつける日光は容赦なく僕の水分を奪い、喉はカラカラに渇いている。
砂漠を日中に渡るバカは居ない、と何かで読んだ。日中は砂のくぼみにテントを張って休み、日が落ちてから極寒の砂漠をゆくのだと聞いた気がする。
でも夢の中の僕はいつまでも日光のもとで歩き続けていて、喉はカラカラで、荷物らしきものは無かった。
僕は倒れた。水を求めて宙に手を伸ばす。そこには何もないのに。
飲みたい。水をください。まだ生きていたい。
目が覚めて、僕は寝汗でびっしょりだった。まだ生きていたい気持ちが心に眠っていたことに驚いた。
【欲望】
僕は故郷を捨てる決意をした。
一切れのパンとナイフとランプをカバンに詰め込んで、いくばくかのお金を持って、愛するギターと一緒に高速バスに飛び乗った。
僕の故郷は田舎だ。
駅には人も居ないし、街灯だって少ない。冬には熊や猿が畑を荒らす。
こんなところで燻っていてたまるものか。都会へ行って、僕は夢を叶えるんだ。父母に否定された夢を。畑を継げとしか言わない両親に、僕の夢にかける情熱がホンモノだって見せつけるんだ。
僕の胸は、来たる苦難など知らずに、熱く熱くたぎっていた。
【遠くの街へ】
テストの点数を見て、危機感が増した。期末こそはマシな点をとらねば赤点だ。よし、僕は鉢巻を締めた。さて部屋を見回すと勉強する雰囲気ではない。あちこちに誘惑が潜んでいる。僕はそれらを片付けることに決めた。
あ、懐かしいアルバムだ。よく聴いていたなあ。久しぶりに聴いてみよう。あーこの雑誌失くしたと思ったらここにしまっていたのか。
時間がどんどん溶けてゆく。部屋は片付くどころか前よりものが散乱しているような? でも期末のため、僕は......ああこれも懐かしい! つい見入ってしまう。
もちろん僕は期末で失敗し、赤点をとった。
【現実逃避】
SNSでこんな投稿を見た。
20年前に里子に出した子猫が家族に見守られて天使になったというお話。
猫にとっての20年は長いなあ。
そう思った時、そういえば僕も、と思い出した。
20年はいかないと思うけれど、そのくらい長い記憶。
随分前にちびすけを里子に出した。
目が開いたばかりのちびすけはミィミィ鳴いていた。
小さすぎて、ママから離していいか凄く悩んだ。
でもママにはもう避妊手術をして、最後の子どもだった。そんなママを看取って結構経つ。ちびすけは今頃ふてぶてしく育っただろうか。どこかで、元気で幸せで居てくれれば、それで良いよ。
【君は今】