まそむ

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10/21/2025, 11:46:55 AM

ばさっと音がして、誰も触れていないのに、本棚から本が落ちた。

あれ、入れ方まずかったのかな?

最初はそう安易に思った僕だが、落ちた本を見て息を呑んだ。

アルバムだった。
落ちた衝撃で開いている。
そこには、この世にはもういないじいちゃんの笑顔。
じいちゃんの写真が、おさまっていた。

じいちゃんが何か言いたいのかな?
オカルトは信じないけれど、何となくそう感じた。

僕はアルバムを直して本棚に戻した。
コンビニにいこうと思って羽織った上着を脱ぐ。
今夜はいいや。出かける気が失せていた。

翌朝、そのコンビニに深夜、トラックが突っ込んだというニュースが入ってきた。
じいちゃん、ありがとう。

【予感】

10/20/2025, 11:20:42 AM

小学校の友人と再会したのは高校の時、最寄り駅だ。
偶然の再会で、こんなこともあるのかと思った。

その友人に縁を切られたのは、わたしが成人の頃。
毒実家から家出した時だ。
学費を出して貰えているのに贅沢だと怒っていた。

わたしは家庭でのことは余り話していなかった。
人付き合い禁止、友人禁止、くらいかな。
部活もバイトも禁止とは友人に伝えていないと思う。

わたしの夢は全て潰し、世間体が大事だという親。
病気になれば怠け病と罵倒して放置。
傷んだ食事を食べさせられ、門限は厳しい。
DVだって毎日3時間くらい続いた。
謝ると何がごめんなさいだと殴られる。
生まれてきたお前が悪いと責められる。
もっとひどいことも言われた。

わたしは病み、それでも大学を留年せずに卒業した。
その後、ひょんなことでまた友人とご縁が繋がった。

今でもその付き合いは薄く長く続いている。
友人に感謝しかない。

【friends】

10/19/2025, 11:25:30 AM

僕の大事な恋人には、言葉が届かない。
先天的に聞こえず、話せないのだ。

最初に彼女に会った時、僕は手話を習っていた。
僕は学生で、彼女は特殊養護学校に通っていた。
ボランティアのつもりで一緒にいた。
やがて、彼女の無垢な笑顔に惹かれていった。

彼女は自分の声量を調整できない。
だから時々びっくりするほど大きな声をあげる。
言葉にならない、感情。多くが驚きの声だ。

僕が手話で覚えた歌を、体を揺らしながら披露する。
彼女は途中から一緒に手話で歌ってくれた。
そして拍手。
あたたかい気持ちになった。

その後、彼女が何かの歌を手話で歌い始めた。
何だろう? わからない。
歌い終わって拍手をすると、彼女は照れたように笑った。

わたしの つくった うた

手話が、今の歌を彼女の自作だと告げる。
僕は、手話で答えた。

おぼえたいな おしえて いっしょに うたおう

こうして、彼女は僕の恋人になったんだ。
まだ、ポケベルや携帯、スマホが普及する前のお話。

【君が紡ぐ歌】

10/18/2025, 12:07:22 PM

駅を出たら白い闇にみるみる視界を奪われた。

滅多に見ないほどの濃霧。
自分の手さえ霞んで見える。
足元もおぼつかない。
霧の中を泳ぐように歩く。

ここは家の近く、いつもの一本道。
濃霧が出ても、迷うはずがなかった。

さあっと霧が晴れた時。
太陽が眩しくて思わず目を閉じて。
ゆっくり目を開けて、声を失った。

ここはどこだ。
道すらない、荒れた野原に立っていた。
周囲の住宅もない。
自分の家も。

振り返ると駅がない。見えないのではなく、ない。
ただただ、荒野が広がっていた。

自分は過去に来てしまったようだ。
穿いていたズボンが、昔風のもんぺに変わっていた。

ばあちゃんに会いたいな。まだお若いのかな。
最期まで聞けなかったレシピ、聞けるかな。
地形と記憶を頼りに、冒険が始まった。

【光と霧の狭間で】

10/17/2025, 11:01:40 AM

あたためておいたガラスのポットを前に、リーフティをティーキャディースプーンですくう。
Tea for me, tea for pot.
1杯は自分、もう1杯はポットの分。

熱湯を注ぎ入れ、リーフが踊り出すのを確認して。
ティーコジーをかぶせ、3分計をひっくり返す。
さらさらと音もなく滑り出す砂時計をじっと見つめる。

砂時計は、落ち切っても、音を立てない。
だから、目を離せない。
でも僕は、こうしてただ砂時計を見つめている時間が好きだ。
だから3分計を選ぶ時に、一番見ていて飽きないものにした。

最後の砂の一粒が落ちたら、ティーコジーを外す。
ゆっくりとポットをゆすって、茶漉しを通して、あたためておいたお気に入りのカップに、紅茶を注ぐ。

芳しい香りが立つ。
僕だけの、幸せな時間だ。

【砂時計の音】

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