シロツツジ

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4/30/2023, 7:18:59 AM

お題 風に乗って

下から風が強く吹き上げてくる

柵が消えた景色は幾分か綺麗に見えた

『人は、死んだら風になるんだよ』

今になって、昔の戯言を思い出す

もし、こうなったらだとか。次はこうなりたいとか。

そんな夢物語は、もう自分に必要ない

「よし、行くか。」

足を少し前に滑らせれば、細い体はあっという間に落ちていく

頬を突き刺すように撫でる風が心地いい

「        」

その言葉は、地面に叩きつけられる肉の音に混じって消えた


※この話は、決して自殺を肯定するものではございません

4/1/2023, 3:01:44 PM

お題 エイプリルフール

「うっそだよー!」

「ちっくしょぉぉぉぉ!」

頭を抱えて蹲る少年に、私は優しく声をかける。

「いい加減諦めたら?私に勝つって言ってもう何年目よ?」

「まだ6年しか経ってない!」

「6年も経ってるでしょ。」

やれやれ、どうしてこうも強情なのか。

「大体あんた、なんでそんなあたしに勝ちたいのよ?」

うぐっ、と声を詰まらせ固まる。こころなしか顔が火照っているように見えるのは気のせいか。

「う、うっせー!俺は絶対お前が騙されるような嘘をついて、お前に勝つって決めてるんだ!だから、その日まで逃げんじゃねーぞ!!」

じゃーな!!あっという間に去っていく夕陽に照らされたランドセルを見つめ、微笑む。

「あの子も、そろそろ気づくかな。」

『もうすぐこの街から出ていくんだ。』

エイプリルフールは、午前までだって。

3/19/2023, 2:53:59 PM

お題 胸が高鳴る

がらり。ドアからあなたが姿を現す。

どきん。

声が聞こえる。

どきん。

こちらに近づいてくる。

どきんどきん。

「おはよう。」話しかけられる。

どきんどきんどきん。

いつまで経っても、胸の音が落ち着くことなんてなくて。

一瞬でいいから、あなたにもドキドキしてほしい。なんて身勝手にも願いながら、私は微笑む。

「おはよう。」

このジュースみたいな幸せが、消えたりしませんように。

3/14/2023, 5:35:57 AM

お題 ずっと隣で

「お父さん、おやつ」

縁側でたまと一緒にくつろぐ夫に呼びかける。

「…今日はなんだ」

「とらやのどら焼きと緑茶よ。」

相変わらずの仏頂面だが、頬に僅かに寄った皺を私は見逃さない。

「たまも一緒におやつにしましょ。」

ぶなぁと鳴き、自然と私たちの間に挟まるたま。

おやつのチュールもお盆に乗せ、縁側へ向かう。

何十年経っても変わらぬ、お茶の時間。

この先も、貴方たちとずっと隣で。

3/10/2023, 2:32:31 PM

お題 愛と平和

『汝の敵を愛せよ』

この言葉を聞く度に俺は思う、そりゃ無理なことだと。

さっきまで殺し合いをしていた敵を突然愛せって?

自分の地位を奪った奴を許せって?

あんたは神だからできたんだろうが、こちとら人間だ。

俺たちは、恨んで憎んで蹴落とすことでしかこの苦しみを晴らす術は無い。

ああ、でも、だからかな。そんなふうにやってきた俺たちだから、こんな最悪な結末を迎えるんだろう。

俺は赤く染まった空を見上げ、嘲笑を漏らした。

元は小さな衝突だった大国同士の諍いは、いつしか他国を巻き込んで、世界規模の大戦争を引き起こした。

沢山の人間が武器を取り、見ず知らずの人間を殺し合った。

いつしか戦争の本来の意味すら忘れ去られたこの時代に、敵国代表は地球を破壊する規模の爆弾を使うと発表した。

何でも、昔極東の国を破壊した『ゲンバク』ってやつの数百倍はあるらしい。

これ以上見苦しい真似をやめるため、ここで人類の歴史に終止符を打つだとか言っていた気がする。

勿論、世界各地からバッシング受けてたが。

轟音を立て空へロケットが打ち出されたと同時に連絡があった。

「例のモノが使用された。総員、これにて解散。逃げるもよし、進むもよし。最期の時まで自由にしろ。」

俺は、進むことにした。

別に敵を殺そうってわけじゃない。

ただ、知りたかった。俺たちが、躍起になって倒そうとした相手の顔を。

殺す対象じゃなくて、一人の人間として。

そう思い歩くうちに、気づいた。

これが、敵を愛すってやつなのかなと。

もっと相手を知りたいと、そう思うことも愛なのかもしれない。

だって、知りたいと思うだけでこんなにワクワクするのは初めてなのだ。

気づけば笑っていた。何だか酷く楽しかった。

ああ、こんなに楽しい気持ちなら、もっと早く気づけば良かったな。

そしたら、お偉いさんにも教えられて、もしかしたらこの戦争も止められたのかもな。

まあ、今もしの話をしてもしょうがねぇか。

空は血の池地獄のような色へ姿を変えている。

もうあと数分もないだろう。

俺は疲れて座り込む。

結局人には会えなかった。

けど、もういい。

俺にしては、最後にいいことに気づけた。

それだけで、十分だ。

ロケットの墜落した所から眩い光が生まれる。

それに飲まれる直前、俺は一人願った。

もしまた人の世が来るのなら、皆が敵を愛する心を持って生まれてこれますように。

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