シロツツジ

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3/8/2023, 1:26:01 PM

お題 月夜

「かぐや姫の本心を表せ」

電話中、彼女は古典の時間に出された課題について話し始めた

「かぐや姫の本心ねぇ…やっぱ、帰りたくなかったとか?」

『そーゆーありきたりなのはダメだって。』

「えー!めんどくせぇな…。」

その後話題はどんどん切り替わっていき、そろそろ日付が変わるので切ろうとした瞬間、彼女が切り出した

『ねぇ。かぐや姫ってさ、ほんとはどっちでも良かったんじゃないかな。』

「え?」

『だから、課題の話。かぐや姫は地上に残ることも、天界に帰ることも、正直どうでも良くて。ただ生き延びたかっただけなんじゃないかなって思ったの。天界に帰る決断をしたのも、そっちの方が長生きできそうだったからかなって。』

「おー…面白いじゃん。」

『でしょ?』

「じゃあ、もし地上に残るほうが長生きできるとしたら残ったのかな。」

『さぁ。でもあたしならどのみち天界に帰る。』

「なんで?」

『だって、地上には大切な育ての親と一応恋人だった帝がいるんでしょ?もし天界に帰るの拒んだら危険に晒されるわけじゃん。だから、あたしは天界に帰る。』

「…なんかすげぇ。」

『でっしょー?』

不意に時計を見れば、針は今にも日付を越えようとしていた。

「もうそろそろ寝るか。」

『そうだね……。』

かちり、かちり、かちり。秒針は少しずつ垂直へ近づいていく。

「じゃ、おやすみ。」

『おやすみ……あのね、』

「うん?」

かちり、かちり。

『大好きだよ。』

かちり。

「……あれ?なんでここにスマホ?」

耳に当てたスマホの画面を見れば、表記は10月1日の真夜中に切り替わっていた。

「寝ぼけたのか…。」

ベッドから立ち上がり、充電器の元に向かおうとした時、ふわりとカーテンが風に舞った。

「……窓なんて開けてたっけ?」

淡く柔らかい満月の光は、俺を優しく見つめていた。

3/5/2023, 8:36:52 AM

お題 大好きな君に

花束を抱え、僕は走る

地平線に消えていく光の最後の輝きが、街を照らす

「ありがとう」と君に言えなくて、花に頼ってしまう情けない僕だけど

何時間も迷って選んだこのブーケの気持ちに嘘はないから

なけなしの勇気を集めて、伝えるよ

ガーベラに似た明るさも、かすみ草のような優しさも、向日葵のような大輪の笑顔も

僕の小さなコップには収まりきらないけど

いつか、丸ごと受け止められる大きな花瓶になるから

どうかその日まで、君の花が枯れないように

僕を傍で見守らせてくれ

「お帰り、ご飯できてるよ」

ドアを開けるや否や、僕は後ろに隠してた手を差し出す

ただいま、今日も愛してる

3/1/2023, 5:37:11 PM

お題 欲望

ある人は言う「それは人を堕落させるものだ」と

ある人は言う「それは人生を彩るための原動力さ」と

それは、時に神の慈愛の笑みのように輝き。

時に、地獄の底のような恐ろしさを見せる。

全く同じものなのに、鏡写しのようなもの。

人はそれを『欲望』と呼ぶ。

2/28/2023, 12:31:00 PM

お題 遠くの街へ

壁に付いたまま消えなかった赤絵の具。

散々ねだって買ってもらった空色のカーテン。

見渡せば、あちこちに小さいままの僕がいる。



昔君が願ったようなかっこいい大人にはなれていないけど。

少なくとも一人で生きる強さを持って旅に出るよ。

これから僕の行く遠くの街で、何が起こるかは分からない。

怒ることもあるし、泣いてしまうこともあるだろう。

でも少なくとも、ここに帰ってくる時は笑っていよう。

君の描いたあの姿に、少しでも近づいていたいから。



「もう行くわよー。降りてきなさーい。」



はーいと返事し、ドアを閉める。

どうかここがいつまでも、僕の心の帰る場所でありますように。