お題 月夜
「かぐや姫の本心を表せ」
電話中、彼女は古典の時間に出された課題について話し始めた
「かぐや姫の本心ねぇ…やっぱ、帰りたくなかったとか?」
『そーゆーありきたりなのはダメだって。』
「えー!めんどくせぇな…。」
その後話題はどんどん切り替わっていき、そろそろ日付が変わるので切ろうとした瞬間、彼女が切り出した
『ねぇ。かぐや姫ってさ、ほんとはどっちでも良かったんじゃないかな。』
「え?」
『だから、課題の話。かぐや姫は地上に残ることも、天界に帰ることも、正直どうでも良くて。ただ生き延びたかっただけなんじゃないかなって思ったの。天界に帰る決断をしたのも、そっちの方が長生きできそうだったからかなって。』
「おー…面白いじゃん。」
『でしょ?』
「じゃあ、もし地上に残るほうが長生きできるとしたら残ったのかな。」
『さぁ。でもあたしならどのみち天界に帰る。』
「なんで?」
『だって、地上には大切な育ての親と一応恋人だった帝がいるんでしょ?もし天界に帰るの拒んだら危険に晒されるわけじゃん。だから、あたしは天界に帰る。』
「…なんかすげぇ。」
『でっしょー?』
不意に時計を見れば、針は今にも日付を越えようとしていた。
「もうそろそろ寝るか。」
『そうだね……。』
かちり、かちり、かちり。秒針は少しずつ垂直へ近づいていく。
「じゃ、おやすみ。」
『おやすみ……あのね、』
「うん?」
かちり、かちり。
『大好きだよ。』
かちり。
「……あれ?なんでここにスマホ?」
耳に当てたスマホの画面を見れば、表記は10月1日の真夜中に切り替わっていた。
「寝ぼけたのか…。」
ベッドから立ち上がり、充電器の元に向かおうとした時、ふわりとカーテンが風に舞った。
「……窓なんて開けてたっけ?」
淡く柔らかい満月の光は、俺を優しく見つめていた。
お題 大好きな君に
花束を抱え、僕は走る
地平線に消えていく光の最後の輝きが、街を照らす
「ありがとう」と君に言えなくて、花に頼ってしまう情けない僕だけど
何時間も迷って選んだこのブーケの気持ちに嘘はないから
なけなしの勇気を集めて、伝えるよ
ガーベラに似た明るさも、かすみ草のような優しさも、向日葵のような大輪の笑顔も
僕の小さなコップには収まりきらないけど
いつか、丸ごと受け止められる大きな花瓶になるから
どうかその日まで、君の花が枯れないように
僕を傍で見守らせてくれ
「お帰り、ご飯できてるよ」
ドアを開けるや否や、僕は後ろに隠してた手を差し出す
ただいま、今日も愛してる
お題 欲望
ある人は言う「それは人を堕落させるものだ」と
ある人は言う「それは人生を彩るための原動力さ」と
それは、時に神の慈愛の笑みのように輝き。
時に、地獄の底のような恐ろしさを見せる。
全く同じものなのに、鏡写しのようなもの。
人はそれを『欲望』と呼ぶ。
お題 遠くの街へ
壁に付いたまま消えなかった赤絵の具。
散々ねだって買ってもらった空色のカーテン。
見渡せば、あちこちに小さいままの僕がいる。
昔君が願ったようなかっこいい大人にはなれていないけど。
少なくとも一人で生きる強さを持って旅に出るよ。
これから僕の行く遠くの街で、何が起こるかは分からない。
怒ることもあるし、泣いてしまうこともあるだろう。
でも少なくとも、ここに帰ってくる時は笑っていよう。
君の描いたあの姿に、少しでも近づいていたいから。
「もう行くわよー。降りてきなさーい。」
はーいと返事し、ドアを閉める。
どうかここがいつまでも、僕の心の帰る場所でありますように。