お題 月夜
「かぐや姫の本心を表せ」
電話中、彼女は古典の時間に出された課題について話し始めた
「かぐや姫の本心ねぇ…やっぱ、帰りたくなかったとか?」
『そーゆーありきたりなのはダメだって。』
「えー!めんどくせぇな…。」
その後話題はどんどん切り替わっていき、そろそろ日付が変わるので切ろうとした瞬間、彼女が切り出した
『ねぇ。かぐや姫ってさ、ほんとはどっちでも良かったんじゃないかな。』
「え?」
『だから、課題の話。かぐや姫は地上に残ることも、天界に帰ることも、正直どうでも良くて。ただ生き延びたかっただけなんじゃないかなって思ったの。天界に帰る決断をしたのも、そっちの方が長生きできそうだったからかなって。』
「おー…面白いじゃん。」
『でしょ?』
「じゃあ、もし地上に残るほうが長生きできるとしたら残ったのかな。」
『さぁ。でもあたしならどのみち天界に帰る。』
「なんで?」
『だって、地上には大切な育ての親と一応恋人だった帝がいるんでしょ?もし天界に帰るの拒んだら危険に晒されるわけじゃん。だから、あたしは天界に帰る。』
「…なんかすげぇ。」
『でっしょー?』
不意に時計を見れば、針は今にも日付を越えようとしていた。
「もうそろそろ寝るか。」
『そうだね……。』
かちり、かちり、かちり。秒針は少しずつ垂直へ近づいていく。
「じゃ、おやすみ。」
『おやすみ……あのね、』
「うん?」
かちり、かちり。
『大好きだよ。』
かちり。
「……あれ?なんでここにスマホ?」
耳に当てたスマホの画面を見れば、表記は10月1日の真夜中に切り替わっていた。
「寝ぼけたのか…。」
ベッドから立ち上がり、充電器の元に向かおうとした時、ふわりとカーテンが風に舞った。
「……窓なんて開けてたっけ?」
淡く柔らかい満月の光は、俺を優しく見つめていた。
3/8/2023, 1:26:01 PM