『こんな夢を見た』
とても幸せな夢だった。私とあなたが白い服を着ていて、壁や床ですらも全部真っ白。
私を見つめるあなたは優しくて、愛しい人でも見るかのような………私ではない誰かを見ているのだろう。だって、あの人は私をそんな慈愛じみた瞳で見つめないのだから。一生叶わないとわかっていた。自覚してはいけない、望んではいけない“夢”を見てしまった。
好き。愛してる。
あなたに贈る言葉は、そんなふた言では収まらなくて。
あなたが愛おしくてたまらなくて。
いつか、あなたと一緒に人生を歩めたなら、
いつか、あなたと愛しき子をこの手にだけたなら、
いつか、あなたと一緒に土に還れたなら、
きっと、幸せだろう。わかりたくなんてなかったよ。
私はあなたを愛しているなんて、知りたくなかった。
「大嫌いだよ、馬鹿」
届くはずもない声を嘲笑った。
『飛べない翼』
「あ、綺麗…」
人は皆、翼を持っている。色も形も大きさも人それぞれだけど、みんなには見えていないのが事実。
翼を持ってる人のほとんどは、濁った色で折れていて痛そうなの。まぁ、痛覚も感覚すらもないみたいで痛がる様子は微塵もないけれど。
でも、翼は大切なものだと思う。翼が折れてしまった人は、二度と飛び立つことができない。
つまり、諦め続けて中途半端な希望を抱えて生きるしかないの。……僕が見てきたのは、だいたい頑張っている人ばかり。
人一倍頑張っている人。
「僕の翼は………」
頑張ることも挑戦することもいいことだけど、大きなことほど、失敗してしまった時や挫折してしまった時に、翼が大きく折れてしまう。
頑張るものが大きければ大きいほど、それに比例して翼は飛べなくなる。飛べない翼になってしまう。
だから無理しないでね。あなたのそんな姿見たくないから。
『哀愁をそそる』
哀愁、知りたくもなかったことだ。私は平穏に楽に生きたいだけだ。苦痛なんてことは大嫌いで感じたくもない。
「君はどう思う?」
ベランダの柵に軽く触れ、そう尋ねる。相手から答えが返ってくることはない。だって、あの人はもう………。
どうしてこうなってしまったのだろう。
考えてもわからないな。
視界に桜色がちらつく。幾多の花びらが楽しそうに揺れ、ベランダへと舞い降りてくる。
「早く戻ってきてくれよ……。」
君が好きな花と季節。君が好きなものに囲まれたって、君は帰ってこなくて虚しくなるだけだ。
どうして私を置いていったの?
辛かったなら言ってくれよ。
あの人は私を置いて────
────ここから飛び降りた。
『暗がりの中で』
思わず手を伸ばす。
そこには何もない。
家の中なのか、外なのか、何もわからない空間。
確か、さっきまで朝で学校へ行く準備をしてたはず。その証拠に私は制服を着ている。
しかし、この状況は好都合かもしれない。
ここなら、学校なんてものもないだろうし、何もしなくてもいいんだものね。
「疲れた。何もしたくない。」
頑張っても結果は出なくて、それが仇になって。
どれだけ逃げたいって思っても逃げられなくて。
私はずっと、この汚い本心を隠して生きていかなきゃ。
そんなの嫌だった。毎日毎日、蓄積されていくストレスを浄化できない。
けど、助けてくれる人もいた。ちょっと年上のあの人。
母が夜勤の時や家に居づらい時、家に泊めてくれるし、私に家事も教えてくれた。
勉強も何もかも、あの人がいたから頑張れたんだ。
「戻りたい……。」
ここにいるのも悪くないけど、
あの人との未来を見たいから、あの人と一緒に居たいから。
私はもっと生きるよ、辛くても。
そう思った途端、黒い霧のようなものがはれていく。
段々と周りが晴れていくような感じがして、気がつくと、
あの人の家の前だった。
お仕事から帰ってきたらしいあの人は驚いた顔をして、
「どこ行ってたの?心配したよ。」
「ごめんなさい、少し悩んでて。」
「……そっか、悩みは中で聞いたげる。」
ねえ、私はまだ生きるよ。
あなたとこれからも一緒にいるために。