『哀愁をそそる』
哀愁、知りたくもなかったことだ。私は平穏に楽に生きたいだけだ。苦痛なんてことは大嫌いで感じたくもない。
「君はどう思う?」
ベランダの柵に軽く触れ、そう尋ねる。相手から答えが返ってくることはない。だって、あの人はもう………。
どうしてこうなってしまったのだろう。
考えてもわからないな。
視界に桜色がちらつく。幾多の花びらが楽しそうに揺れ、ベランダへと舞い降りてくる。
「早く戻ってきてくれよ……。」
君が好きな花と季節。君が好きなものに囲まれたって、君は帰ってこなくて虚しくなるだけだ。
どうして私を置いていったの?
辛かったなら言ってくれよ。
あの人は私を置いて────
────ここから飛び降りた。
11/5/2023, 4:22:23 AM