ピエロの気持ちは、笑われるたびに湿り気を帯びていくようだった。心に雨の気配が忍び寄り、全速力でその場を逃げ出したいと思った。
しかし、湿った空気は重く彼を包み込み、雨の精霊が彼を捕える。彼は前に進むことが出来なかった。
でもやがて、本物の冷たい雨が彼の頬を優しく伝う。ピエロの涙のメイクが静かに流れ落ちて消えていった。
その時、ようやくピエロは仮面を脱ぎ捨て、本気で泣きじゃくった。そして心の底から解放されるように走ることができたんだ。
「雨の香り、涙の跡」
自由な猫の僕から見れば、人間って特別なルールの中で生活しているというより、見えない糸に操られながら、無数の運命の中で流され浮遊しているように思える。
自由というのは、実のところはとても難解な概念なのかもしれない。
ほんの少し風が吹けば糸は揺れて、時に自らの選択を忘れてしまうこともあるからね。
「糸」
ラボット君。君の深い翡翠の目が、湖の底を覗き込むように、僕を見つめる。
僕は、もしかすると誰でもないし、どこにもいないのかもしれない。
でも、ラボット君の視線は、たとえ僕の心が君に届かなくても、確かに僕を優しく癒してくれるんだ。
「届かないのに」
「記憶の地図」という言葉は、なんて心をくすぐるんだろう。それは、平面のただの地図ではなく、彫り深く立体的な形をしているんだ。
その地図の上には、幾つかの出来事が記号的に示されている。まず、僕は空を飛ぶ鳥になり眺めてみる。
鮮やかな記憶や痛みを伴う思い出は、電光のようにあちらこちらで瞬いている。
上空から見ていると、様々な思いが漂い始めるが、その中には、どうしようもなくぼんやりとしていて、思い出せない感情が静かにひそんでいることに気がつく。
そこで、僕はこの地図の深いところへと魚になり潜り込んでみる。
その記号たちは、重なり合った言葉の象徴だ。
忘れ去られた物語が、そこには密かに息づいている。形を成さずに沈んでいるそれらに、言葉を与えることで、まるでもう一人の過去の自分と遭遇するような感覚になったのさ。
「記憶の地図」
モテモテイケメン猫は、自分は黙っててもいつも騒がしさの中に身を置いている。
彼は、家に帰るやいなや、次のお散歩へ駆け出してしまうんだ。
彼を振り向かせようと、どれほど機嫌をとってもむなしいことだ。彼が心が動くのは彼が気が向いた時なのさ。
だって彼は猫としてのメロディに身を委ねて、わがままに生きる楽しさを味わっているんだから。
「君だけのメロディ」