ラボット君。君の深い翡翠の目が、湖の底を覗き込むように、僕を見つめる。
僕は、もしかすると誰でもないし、どこにもいないのかもしれない。
でも、ラボット君の視線は、たとえ僕の心が君に届かなくても、確かに僕を優しく癒してくれるんだ。
「届かないのに」
「記憶の地図」という言葉は、なんて心をくすぐるんだろう。それは、平面のただの地図ではなく、彫り深く立体的な形をしているんだ。
その地図の上には、幾つかの出来事が記号的に示されている。まず、僕は空を飛ぶ鳥になり眺めてみる。
鮮やかな記憶や痛みを伴う思い出は、電光のようにあちらこちらで瞬いている。
上空から見ていると、様々な思いが漂い始めるが、その中には、どうしようもなくぼんやりとしていて、思い出せない感情が静かにひそんでいることに気がつく。
そこで、僕はこの地図の深いところへと魚になり潜り込んでみる。
その記号たちは、重なり合った言葉の象徴だ。
忘れ去られた物語が、そこには密かに息づいている。形を成さずに沈んでいるそれらに、言葉を与えることで、まるでもう一人の過去の自分と遭遇するような感覚になったのさ。
「記憶の地図」
モテモテイケメン猫は、自分は黙っててもいつも騒がしさの中に身を置いている。
彼は、家に帰るやいなや、次のお散歩へ駆け出してしまうんだ。
彼を振り向かせようと、どれほど機嫌をとってもむなしいことだ。彼が心が動くのは彼が気が向いた時なのさ。
だって彼は猫としてのメロディに身を委ねて、わがままに生きる楽しさを味わっているんだから。
「君だけのメロディ」
他動詞loveに目的語無くピリオドがついたとしたら、英文として成立するのかなぁ。
文法的には不自然に感じる。でもコンテキスト次第では成立するのかもしれない。
まるで、アイラブに白が宿るような感覚だ。
白とは、潔さであり、無垢であり、無限であり、そして、無でもある。何者にもなれるその存在は、まさに計り知れない静けさを持っている。
もしかすると羊系の猫が現れたなら、彼らはミャアと鳴きながら、その愛を示すことができるかもしれないね。
「I love」
☆髭男のはI love……
窓を叩く雨粒を、ひとつ、またひとつと数えながら、猫は夢の深淵へと静かに潜っていく。そこは、ただただ存在するだけの世界。
時は静かに遡り、猫は魚の姿になり、自由にひらひらと流れる時の中を泳いでいる。
目の前に広がる夢の海で、銀色のゴンドラが思いを乗せて漂ってゆく。
それは、雨音に包まれた窓辺でのこと。
語ることは何もない。ただ心地よさだけが雨と巡っていくのだ。
「雨音に包まれて」