窓を叩く雨粒を、ひとつ、またひとつと数えながら、猫は夢の深淵へと静かに潜っていく。そこは、ただただ存在するだけの世界。
時は静かに遡り、猫は魚の姿になり、自由にひらひらと流れる時の中を泳いでいる。
目の前に広がる夢の海で、銀色のゴンドラが思いを乗せて漂ってゆく。
それは、雨音に包まれた窓辺でのこと。
語ることは何もない。ただ心地よさだけが雨と巡っていくのだ。
「雨音に包まれて」
ラベンダー色に輝く満月の下、街の小さな片隅で、一匹のイケメン猫がロックを奏でる。
月夜に響き渡る歌声に、周囲の猫たちは魅了され、シッポをリズミカルに揺らし始める。
まるで深海のネコ平目のように。
美しい猫たちの幻想的なロックナイトが始まる午前0時。
君もこっそり参加してみるかい?こわくないよ、大丈夫。
「美しい」
君と歩いた道は、風が心地よく吹き抜けていた。弾む足音が静かに時を刻んでいたよ。道の向こうには、自由な青空が広がっている。
君と一緒なら、その道で跳ぼうが潜ろうが、どんなことも安心できたのさ。
それは僕にとって、日常でありながら、特別なひとときでもある道だった。
「君と歩いた道」
少女は夢を見た。彼女は夢の中でアイドルスターになりキラキラの舞台でファンに手を振りながら歌っていたんだ。
少女はこの夢を未来からのメッセージだと思い、勢い全開でアイドル養成所に通うことにした。
学校が終わると、お友達と遊びに行って大好きなパフェを食べたりするのをやめて、養成所でひたすら歌とダンスのレッスンをしたんだよ。
でも何年経ってもデビューは遠く、彼女はいつの間にか夢みる少女から、大人になってしまった。
養成所を卒業した彼女は、アイドルの夢を手放し、少女の時を取り戻すかのように、甘いパフェを貪る日々を送り始めたのさ。
そして数年後、彼女はメディアの片隅に現れることになった。
ダイエットタレントとして時々テレビに出て、視聴者にパフェ体験を語りかけている。
「夢を追いかけるのもいいけど、時にはパフェを食べて心満たされるのも悪くないわ。パフェを口にしながら"私の好きなアイドルは、私よ"って心の中で呟くの」ってね。
「夢見る少女のように」
キュウリ猫の国の猫たちは普通猫より進化して皆が賢く特別な能力を持っていた。キュウリ猫たちは、普通の猫をバカにし、眉間のシワは日々深まるばかり。退屈な毎日を送っていた。
ある時、ひとりのキュウリ猫のチトは
「こんなに進化しているはずなのに、なぜ僕らは不幸なんだろう。もしかしたら、普通猫の国には、本当の楽しみが隠れているのかもしれない。僕は普通猫の国に行ってみたい」
と考えた。
これを聞いた他のキュウリ猫たちは、チトをバカにして笑ったが、チトの心はもう決まっていた。
彼は普通猫の国へと旅立つことにした。
チトが普通猫の国に行ってみると、自由に遊び回る猫たちがたくさんいた。
猫たちは、日向ぼっこをし、風を感じながら、悠々と自分の時間を楽しんでいた。
チトは普通猫たちに羨望の目を向けたが、チトのキュウリ猫の印によって、普通猫とは友達になれなかった。
悩んでいると、一匹のドラ猫がチトに近づいてきて
「君の眉間のシワを伸ばすことができるならその壁を崩せることが出来るよ」
と言った。
それを聞いて、チトは眉間のシワを伸ばしポワンとした気持ちになると、ほんの少しだけ退化し、笑顔になった。チトは普通猫になった。
今チトはのんびりとお昼寝をしながら、ドラ猫から学んだことを時折思い出している。猫たちの本当の楽しみをね。
「さあ行こう」