récit

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5/20/2025, 2:02:48 PM

空に溶けていく。
いつまで経っても暮れない時の中、紅色の空が広がっている。
君との恋も、いつまでも暮れないものだったら良かったのに、君は遠く月の海へと帰ってしまった。
だから僕は、君を探すため紅色の鳥になったんだ。
ひたすら飛び続けるけど、ここには夜が来ないから、月の光は僕の目には映らない。
君を見つけることができなくて、切なさだけが紅の空に渦巻いている。
僕は月を想い、ただ待ち続けるしかないんだ。

「空に溶ける」
☆"暮れない"と"紅(くれない)"の掛けことば

5/18/2025, 11:46:46 PM

小学校の卒業式の日、20年後の再会を約束し、タイムカプセルに手紙を入れた。
あれから時は経ち忘れていた頃に同窓会の連絡が来た。
みんなとの再会、思い出の小学校、そしてタイムカプセルの中の手紙。何を書いたんだっけ。
ワクワクしながら埋めた場所にみんなで向かった。
缶を開けると、20年前の自分の手紙が現れた。
そこには
「20年まって」とだけ書かれていた。
なんだ、これ。
シンプルすぎるじゃん。
当時の僕は、いったい何を思っていたのかな。
きっと、その時は意味がなかったのだろう。
でもその答えは、この20年を振り返って見つけろということなのかもしれない。

「まって」

5/17/2025, 11:28:31 PM

僕は藍。
君は、僕の花の色を知っているかい。僕は、純白に咲くことだって出来た。やわらかな風に吹かれて、無邪気に揺れていたかもしれないんだ。でもその白さを纏う前に摘まれて、僕は君の藍染の帽子になることが出来た。

おかげで、ただ風に揺られてだけでなく、君が連れていってくれる未知の世界に幸せを感じている。
君の青になってから、空を仰ぐたびそう思う。
これからも、まだ知らない新しい地平線を見てみたいよ。
僕は、青空より深い藍。

「まだ知らない世界」

5/17/2025, 12:01:59 AM

西鳩シェフは、一等地の三ツ星レストラン"フェデトワール"で、料理長を長年務めてきた。卓越した料理の知識、技術、センスを備え、温厚な人柄で弟子たちからも尊敬されていた。

ある日、寝癖頭の弟子が
「シェフ、次の世界的料理人に贈られるキュイジーヌグランドール賞を狙いましょう」と言った。
その時、西鳩シェフは
「賞のために料理をしてるんじゃない」と答え、弟子の寝癖頭にイライラして、ついフライパンで弟子の頭をこづいてしまった。
弟子の頭からチカチカした星が3個出た。
このことで、西鳩シェフは弟子に訴えられ、ニュースにも取り上げられた。
そして、西鳩シェフはフェデトワールを自ら辞めることを決意した。

その後、西鳩シェフは地元に小さな家庭的ビストロを開店した。良心的な価格設定で、評判はすぐに広まり、半年前からの予約が必要なほど繁盛した。
かつてのフェデトワールの弟子の中から2人が、彼のもとで働きたいと願い出て、彼らは西鳩シェフの教えを受け継ぎ、特に寝癖には注意を払った。

こんな西鳩シェフは、以前よりも充実した毎日を送っている。星なんていらないものだなと感じている。

「手放す勇気」

5/16/2025, 4:04:09 AM

オイラは、最初は中型のネズミのような生物だった。カピバラのような可愛さもなくヒトたちからはあまり好かれていなかった。
そんなある日、オイラの仲間がネズミ捕りに引っかかり、ヒトたちにいじめられたんだ。すると、仲間の身体の細胞の酵素が奇妙な反応を引き起こし、ちりちり光り始めたのさ。それ以来オイラたちはヒトたちによって捕獲され、いじめられ、光る生き物に改良された。形態も可愛く変えられて、ピカ獣と呼ばれた。
そして、今では電気代を節約するために、ヒトたちは、オイラたちをペットとして大切に飼って可愛がっている。
こんなオイラたちのご先祖たちを思うと、オイラは少し胸が痛む。

「光輝け、暗闇で」

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