récit

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5/17/2025, 11:28:31 PM

僕は藍。
君は、僕の花の色を知っているかい。僕は、純白に咲くことだって出来た。やわらかな風に吹かれて、無邪気に揺れていたかもしれないんだ。でもその白さを纏う前に摘まれて、僕は君の藍染の帽子になることが出来た。

おかげで、ただ風に揺られてだけでなく、君が連れていってくれる未知の世界に幸せを感じている。
君の青になってから、空を仰ぐたびそう思う。
これからも、まだ知らない新しい地平線を見てみたいよ。
僕は、青空より深い藍。

「まだ知らない世界」

5/17/2025, 12:01:59 AM

西鳩シェフは、一等地の三ツ星レストラン"フェデトワール"で、料理長を長年務めてきた。卓越した料理の知識、技術、センスを備え、温厚な人柄で弟子たちからも尊敬されていた。

ある日、寝癖頭の弟子が
「シェフ、次の世界的料理人に贈られるキュイジーヌグランドール賞を狙いましょう」と言った。
その時、西鳩シェフは
「賞のために料理をしてるんじゃない」と答え、弟子の寝癖頭にイライラして、ついフライパンで弟子の頭をこづいてしまった。
弟子の頭からチカチカした星が3個出た。
このことで、西鳩シェフは弟子に訴えられ、ニュースにも取り上げられた。
そして、西鳩シェフはフェデトワールを自ら辞めることを決意した。

その後、西鳩シェフは地元に小さな家庭的ビストロを開店した。良心的な価格設定で、評判はすぐに広まり、半年前からの予約が必要なほど繁盛した。
かつてのフェデトワールの弟子の中から2人が、彼のもとで働きたいと願い出て、彼らは西鳩シェフの教えを受け継ぎ、特に寝癖には注意を払った。

こんな西鳩シェフは、以前よりも充実した毎日を送っている。星なんていらないものだなと感じている。

「手放す勇気」

5/16/2025, 4:04:09 AM

オイラは、最初は中型のネズミのような生物だった。カピバラのような可愛さもなくヒトたちからはあまり好かれていなかった。
そんなある日、オイラの仲間がネズミ捕りに引っかかり、ヒトたちにいじめられたんだ。すると、仲間の身体の細胞の酵素が奇妙な反応を引き起こし、ちりちり光り始めたのさ。それ以来オイラたちはヒトたちによって捕獲され、いじめられ、光る生き物に改良された。形態も可愛く変えられて、ピカ獣と呼ばれた。
そして、今では電気代を節約するために、ヒトたちは、オイラたちをペットとして大切に飼って可愛がっている。
こんなオイラたちのご先祖たちを思うと、オイラは少し胸が痛む。

「光輝け、暗闇で」

5/14/2025, 11:19:39 PM

水兵リーベ僕の船〜♪
僕は元素記号の語呂合わせの歌を、頭の中で口ずさんだ。
なんだか頭も肩も少し凝っているし、勉強に飽きてしまって、今度は声に出して歌ってみた。
歌声がちょっとだけ空気を振動させ、リーベの船は波に揺れていくみたいに感じる。
そして、深呼吸をして身体に酸素を送り込んだ。

それから、僕はキッチンに行って、クラスのあの子の綺麗な髪の毛を想いながら、アイスカフェオレでリラックスする。

あとは歯を磨いて、もう寝るだけさ。

「酸素」

5/13/2025, 11:30:04 PM

記憶の海は、日差しを受けキラキラしている。その表面には、波に乗った軽やかな思い出たちが浮かんでいる。だけど、その深淵には重たく静かな記憶がひっそりと沈んでいるんだ。
この海の中をゆったりと泳ぐタツノオトシゴは、大切な感情や思い出の象徴だ。
彼が元気に泳ぎ回れば、記憶は楽しげに輝いている。でもある時、彼に影がさすと、海の比重が歪んでくる。ポコポコと泡が立ち、海全体が濁り始めるんだ。
でもそれは、何かを問いかけている。きっと意味がある。
タツノオトシゴのご機嫌を気にするのも必要かもね。

お題「記憶の海」

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