待ち合わせの駅ビルにある花屋を訪れる。
目についたのは、一重咲きのパステルグリーンのチューリップ。
春の花なのに冬の気配を感じて、小さな可愛らしいブーケにしてもらった。
綺麗なリボンを添えて、久しぶりに会うあなたに贈ろう。
この花束が、あなたにほんのりと幸せを届けるなら、私も嬉しいの。
「あなたへの贈り物」
時代という波の中、彼は舵を取る。
不確かな海の流れを掴み、自らの判断で乗りこなしていくのが目指すべき道だ。
それにしても、どの時代にあっても他者を大切にすることは何より重要なことだと彼は思う。
目の前にいる人々を軽んじてしまったのなら、三つの頭を揃えてその場から身を引くべきだと、強く感じていた。
人々の信頼を裏切ることは、自らの存在を脅かすことに他ならない。
倫理という羅針盤を失えば、時代の流れから置いて行かれてしまう。
彼は、刻々と変化する波を感じながら、道を探し求め続けるのだった。
「羅針盤」
カエル君は赤ちゃんの時はお魚のような姿をしていた。
成長するにつれ細長い四肢が伸び、ぴょんぴょんと跳ね回って、水辺の草の上の小さな虫を巧みにからかい食べてしまうのだ。
カエル君は上手に変身できたことをとても誇らしく思っている。
彼は過去を振り返らない。後悔というものを知らない。
冬の間、カエル君は土の中で静かに眠りについて春の訪れを待つ。
目覚めたら、彼はキツネザルになれるのではないかと期待を抱き、木の上を歩く夢を見ている。
でも、残念ながら目覚めても、カエル君はいつまでもカエルのままである。
未来への過度の期待が落胆を招くということを、彼はまだ知らない。
「明日に向かって歩く、でも」
僕はただひとり君だけに恋の歌を届ける。
その歌は、揺れ動く中心から静かに波紋のように広がっていく。
聴いた人々は、みんな自分のためだけに流れる音楽だと感じるのさ。
そして人はそれを心のどこかに仕舞い、いつか恋した時に静かに口ずさむんだ。
「ただひとり君だけに」
君のその手は、僕の手に向けてファイン調整されたかのように、ぴったりとはまる。
手のひらの中には、無限に広がる世界が広がっている。
僕はその深淵に引き込まれ飲まれていく。
それは宇宙そのもののようで、僕の心の奥を君は掴む。
「手のひらの宇宙」