#きらめき
日常のあちらこちらに潜むきらめき。
強くはない。存在感があるわけでもない。
キラキラしてるわけではなくて。
そっと、そこにあるような感じ。
何も言わないで、誰にも気付かれないのに、
素知らぬ顔で、ただ静かにそこにあるきらめき。
気付ついた瞬間、きらめきの欠片が輝き出す。
どんな小さな欠片だろうとも。
見つけてって叫ばなくても
色とりどりの宝石で飾らなくても
気付いている。
私のなかに、もうきらめきがあるって、
私は知っている。
書きたいのに、書けない。
上手く文章を書かなければ。読み返すたびになんだか気持ちが悪くて、結局全部消した。あーあ、また書けなかった。
せっかく書いたのに。
また、消しちゃった。
#香水
匂いって、強烈だ。
どんなに忘れていても、その香りを鼻に感じれば、一瞬にして脳裏にその存在を思い出してしまう。
私の日常生活から香りを消して数年、今も近い存在なのに、遠くにいるような。確かに存在はあるのだけれど、意識して考えないといけないくらい、私の中で彼の存在が薄れてゆく。
自分の一部だったものが欠けるような感覚。記憶の中での彼が、だんだんと不透明な色になって、どんな風に笑っていたのか、どんな声だったのか、どんな音で名前を呼んでくれたのか、はっきりと思い出すことができない。
いろんな音と匂いの混じる町で、覚えのある香りに、私は思わず立ち止まった。間違えるはずがない。私の隣で香水を撒き散らしていた彼の、あの匂いだ。
だけど、周りを見回しても、彼の姿は見つけることができなかった。世界にひとつしかないわけじゃないし、きっとありふれてる香りだ。たまたま同じものを使っていた別の人かもしれない。
仮に、もし彼だったとしても、私はこの人の往来の中から彼を見つけるのは難しいだろう。
顔も、声も、存在すらも薄れていくのに、匂いだけは、ハッキリと覚えていた。
香水は、香水にしかすぎないのに、彼が使っていたというだけで、あの香りは彼だということが、脳に刻み付けられている。
次第にぼやけてゆく視界に、ふわりと柔らかい香りが舞う。
「はっ。なんだ、変な顔だな。」
顔上げると、こちらを見下ろすニヤケずらと目が合った。途端に、香りが強くなる。
引き金みたいに、埋もれていた記憶が一斉に弾け出した。
私は知ってる。覚えている。ただ、考えていなかっただけで。
ちゃんと、この人のことを、知っている。
「うっさい。」
瞳に宿る熱を誤魔化すように、私は乱暴に口を開いた。
#言葉はいらない、ただ…
言葉はいらない、だだ
そばにいて。
雄弁に語る必要はないから
愛の言葉もいらないから
喜ばせるための贈り物もいらないから
何も望まないから
ただ、ただ、
そばにいて欲しい。
なんて嘘です。
言葉も欲しいし、そばにいていて欲しい。
不安だから、言葉が欲しい。
好きも愛してるも大切も、全部言葉にして伝えて。
上手く受け取れなくて、「嘘!本当は思ってないくせに」って、思ってしまう自分も許せるようにするから、何度でも伝えて欲しい。
寂しいから、そばにいて欲しい。
大丈夫って、手を握ってほしい。
大好きだよって、抱きしめてほしい。
愛してるよって、笑ってほしい。
言葉を尽くせば尽くすほど、気持ちは分からなくなるばかりで。
無言の愛情に、心には疑念が生まれて、解釈はねじ曲がっていく。
だから、言葉が欲しい。
言葉だけじゃなくて、そばにいて欲しい。
自分という全てをかけて、愛を伝え――られるのも、眩しくて怖くて逃げたくなる。
人と一緒にいたいの、いたくないの、どっちなんだろうね。
顔を上げたら、夏がすぐそこにあった。
鮮やかな青空に、輪郭のはっきりした雲が映えている。綿あめみたいな絹雲でも、泡のようにふわふわした雲でもなくて、触ったら固さを感じるような弾力のある雲。暑苦しいほど力強いそれこそが夏の風景に相応しいと思った。
宙を走る電線、風になびく洗濯物。ぼんやりと歩く私の先を、子供たちが駆けてゆく。
巡る月日のなかで、浮かんでは消えていく雲たちにも、同じものなどきっと無いんだろう。たくさんあるのに、どれも違う。同じものが無いことがあたりまえでみたいに、雲は形を変えて流れていく。まるで、変わることに恐れることはないように。
自然にあるものに、どれ一つも同じものが存在しなくて良かった。
比べることにすら意味がない。
ただ、そこにあることを感じられる自然の摂理が癒しになる福音だから。