あの頃の私へ
好きな人に対して素直になれなくて、困っていたよね。彼が自分の事が好きなのか分からなくて、いつも素っ気ない態度をとっていたと思います。だけど、少しずつでいいから、素直な気持ちを伝えてください。そうすれば、彼も喜んでくれるはずだから。
本当に彼とは両思いで、この後あなた達は付き合って恋人になり、数年後には結婚します。まだ子どもはいないけれど、しばらくは二人の時間を楽しむつもりです。あの時、あなたが彼を選んでくれたおかげで、今の私は幸せです。どうもありがとう。
今の私より
「…何を書いていたのですか」
「えへへ、内緒」
私は、過去の自分に向けて書いた手紙を封筒にしまい、彼に声をかけられた時に隠したのであった。
テーマ「あの頃の私へ」
ある朝、私は珍しく彼より早く目を覚ました。すやすや眠る彼の寝顔を見て、微笑ましく思いながら彼を起こさないように布団から出ようとした。しかし、後ろからギュッと抱き寄せられ、止められてしまった。
「ねぇ、起きてよ。もう朝だよ」
「休みなんですし、たまには良いじゃないですかぁ…」
結局、私は彼を起こそうとしたのだが、彼は寝ぼけた声でそう言って、私を離すつもりはなかった。こうなったら仕方がない、と手足をじたばたしてもがいていたら、強めに抱きしめられ、脚まで絡ませてきて私は動けなくなってしまった。
「ほら、これで逃げられませんね…?」
「うっ…」
「さぁ、このまま二度寝しちゃいましょう?」
大好きな彼に耳元で囁かれ、ドキッとしてしまつをたが、それ以上に彼の温もりが心地良く、段々と瞼が降りてきた。そして私は、彼と睡魔から逃れられないまま、眠りに落ちた。
テーマ「逃れられない」
「今日は楽しかったよ、またねー!」
「うん!また明日ー!」
私と彼は、幼い頃よく二人で遊ぶくらい仲が良かった。夕日で空が赤く染まり、夕焼け小焼けのチャイムが鳴る頃に別れていた。それまでは時間を忘れて楽しく遊んでいたので、あっという間に感じていた。もっと長く一緒に居れればいいのに…と思っていた。
「今日は楽しかったです、おやすみなさい」
「うん、また明日」
それから時が経って、長い付き合いになった彼と今では結婚して、共に暮らしている。夜になって、日付が変わる頃に一緒に眠りにつく。それまでは一緒にご飯を食べたり、お話したりなど共に愛を育む時間を過ごしている。あっという間に寝る時間になって、今では一緒に夜更かししたいな…と思っている。
また明日、という言葉は同じはずなのに、お互いの距離が近くても、遠くても使うことになるとは思っていなかったなぁ。
テーマ「また明日」
私はガラス細工が好きだ。色が付いていても透き通っていて透明感があるし、透明なガラスでも模様がしっかりと見えて美しい。私は彼とガラス細工の売り物を眺めていたのも忘れて、思わず魅入ってしまった。
「貴方は透明なガラス細工の他にも、青色のものも好きなんですね」
「そうだね、青色はかなり好きだから…」
「そういえば、青色って透明に近い色のイメージありますよね」
彼に言われて確かに、と思った。水も本来は透明なのに、青色で表されることも多いし、水色という色もある。透明な空気が集まった空だって、日中は青色で、何なら空色という色もある。なぜ透明なはずのものに、青色系の名前がつくのだろうと不思議に思うが、同時にそれらの色はとても美しいと思ってしまう。
「青色が好きなのは、透明感があるからかもね」
「確かに、透き通っているものって言葉に表せない美しさを持っていますね」
そんな話をしながら、私たちはガラス細工を眺めていた。
テーマ「透明」
理想の自分とはいつも遠いもので、思い描けば描くほど今の自分は何も持っていないように見える。特に、私は大好きで憧れている彼の隣に立つことを考えると、完璧な自分になりたいと思ってしまう。
例えば、容姿。彼は顔立ちが整っていて、それでもってお洒落なのだ。それに対して私は、ごく普通の顔立ちで、お洒落とは程遠い。少しでも可愛くなろうとおめかししても、本来の自分の面影がちらついてしまうのだ。
例えば、能力。彼は頭脳明晰で、スポーツ万能という文武両道であり、手先も器用など弱点が見当たらない。それに対して私は平均かそれより下で、秀でた物も持ち合わせない。本当につまらない人間だ。
こんな私と一緒に居ても、彼は楽しくないだろうな…と思うと悲しくなってしまう。そのせいか、私は彼の前で、
「ほんと、私のどこが良いんだろう…」
と呟いてしまった。すると彼は真剣な表情で、私の目を見つめながら、
「そんなに自分を卑下しないでください。俺は理想のあなたではなく、今の貴方が大好きなんです。俺はいつも貴方の笑顔に救われているんですよ?」
と思いを伝えてくれた。それがとても嬉しくて、私は笑顔で頷いた。
テーマ「理想のあなた」