#巡り会えたら
「……華。」
華、会いに来たよ。
今日は雨だよ、せっかく電車で行こうと思ったのに豪雨の影響で駅が混んでて遅れちゃった。
「……んもぅ、いつまで怒ってんの……、私は謝りたいのに。」
私達、実は喧嘩中。
私はすっかり熱も冷めて反省しているのに、華はいつになってもさましてくれない。
今日は、今日こそはといつも訪れているのに相手にもしてくれない。
華は、喧嘩した次の日、信号無視の軽自動車に突っ込まれたんだ。
それで、謝れなくて、謝りたくてきたのに目を覚ましていなくて。
伝わったら起きてくれるかなってなんどもごめんねって言ってるのに何週間経っても状況は変わらない。
なんだかバカバカしくなってきた。
なによ、もう。
謝らせてよ……
いつになったら謝れるかな……、また二人で、一緒にいたいだけなのに。
また、謝らせてよ。
また遊ぼう?
そうだな……、まだ目は覚まさないようなら、夢で巡り会えたら。
#奇跡をもう一度
ずっと考えていることがある。
私は去年、とある男性と出会った。
夜遅く、一人でコンビニに行った帰り道に大柄な男性二人に声をかけられた。
ナンパだった。
人影も少ない時間帯だったから女なら誰でも良かったのかな。
体格の差もわかっててそれも利用して少々強引に連れて行かれそうになった。
あぁもう駄目かも、と諦めかけたとき、
「俺のになんの用ですか?」
そう相手を追い払ってくれた。
すぐ行ってしまって、暗くてよく顔は見えなかったけれどスラッとした身体で低くて落ち着いた声だった。
「……また会えないかなぁ。」
出会ったあの場所の近くを歩きながらつぶやいた言葉は、どこに届くこともなく空に溶けていった。
……はずなのに。
「来てくれてありがとうー!」
このあたりには野外イベントができる、ステージのある大きな公園がある。
ライブがされているのか、スピーカーを通した大きな男性の声が聞こえた。
マイクの影響でザラついてはいるけれど、それは、低くて落ち着いた声だった。
#たそがれ
「……たっくん。」
「……ん、はる。どうした?」
どうもなにも、何も無い。
窓際のラタンチェアに腰掛けた、夕日に照らされたたっくんの横顔が綺麗だと思った。
気がついたら、声をかけていた。
「なにもないよ。かっこいいなって。」
「なんだよ、急に。」
「私はいつもいきなりでしょ? 思ったときに言わないとちゃんと伝わらないかなって。」
「そうか……」
目を伏せて、小さくははっと笑うたっくん。
ふふ、照れた?
「夕日。綺麗だよ?」
「おぅ。……隣。来てよ。」
「はーい。」
黄昏時、大好きな人と空を眺める。
そっとたっくんの手を取って、指を絡めた。
これはどこにでもある、けれども唯一無二の、竜也と遥香の物語。
#きっと明日も
今日は雲一つ無い晴天。
そんな空模様にそぐわず、遥香は浮かない表情をしていた。
「はぁ……」
「はーるか。」
「わっ……華か。」
「今日は晴れだよ? なんで空見てため息ついてるのさ。」
なんで?
華だってわかるでしょう?
明日は部活の大事な試合がある。
先週の予報では明日が晴れで明後日が雨だったのに、今日の朝見てきたら変わっていて明日が傘マークだった。
これで勝ち抜かないと、もう一つ上の大会に行くことができない。
延期になった日は行事と被っていて参加できない。
先輩方はそのまま引退。
同じ部活に入っている華は、そんなことわかっているはずなのに。
「わかるでしょう? 明日は試合だよ?」
「そうだね。自信無いの?」
「違うよ。天気。明日が雨予報に変わったんだよ? 中止になったらどうしよう。」
「なに、そんなこと……じゃあさ。」
これ作ろう!と言って見せられたメモには、雑なてるてるぼうずの絵が描かれていた。
「これで全部解決でしょ?」
「そんなの気休めでしかないでしょう? 意味無いでしょ、それ。」
「そんなことないって。『明日雨降ったら』って不安がってるより、『きっと明日は晴れる』って自信もって練習したほうが断然いいじゃん。」
「……まぁ。」
「ね? 気休めかもだけどさ、それでいいんだよ。」
「……うん。ふは、そうだね。」
「じゃあ練習後うち来てよ! 一緒につくろう!」
「おっけ! 約束ね。」
明日の空は雨模様かもしれないけれど、華がいるから、私の心はきっと明日も晴れだ。
#静寂に包まれた部屋
いない、いない。
お母さんが、お父さんが、いなくなった。
昨日まで、いつも通り家族三人で過ごしていたはずなのに、目を覚ましたらどこにもいない。
きっと私から隠れているんだ。
いたずら好きなお母さんだから、それになんだかんだ付き合ってあげるお父さんだから。
「……ねぇ、いるんでしょ? 早くでてきてよ。」
なのに。
両親の部屋、リビング、浴室、猫しか入れないような隙間、全部全部探したのに見つからない。
「はるちゃん。」
「お母さんとお父さんは……お星さまになったんだよ。」
私のすすり泣く声だけが響く静かな部屋の中、ばあちゃんの体温だけを感じていた。