一尾(いっぽ)

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7/24/2024, 1:46:12 PM

→あなたへ、ありがとう。


必ず届く誕生日カード。
ランチ会ではない自然発生的午餐。
怖くない沈黙。
SOS送受信。
閑話上等。


テーマ; 友情

7/23/2024, 4:14:14 PM

→短編・フラワーレインボーパワー・ウェイクアップ!!

「もうすぐ、咲きます」
 そんな張り紙をされて、このサボテンは捨てられていた。
 夜中の街灯の下、電柱に寄り添うように捨てられていたサボテン。そのビジュアルがあまりに物悲しくて、私はこのサボテンを家に連れて帰った。感傷的だったのだと思う。勤めていた会社が忙しすぎて、サボテンの孤独と仕事に忙殺される自分を重ねた。だから、救いたかった。
 あれから1年、サボテンはまだ咲いていない。
 もしかして見逃したのかなとか、環境があってないのかなとか、スマートフォンでサボテンの育て方を調べながらの1年はあっという間だった。
 そして今年、ようやく蕾がついた。ちょっとした感動。
「まだ咲かないね~」
 夕方、仕事を終えて帰宅した私はサボテン相手に晩酌を楽しんでいた。
 夏の夜空はまだ夕暮れの紫を空に残している。1年前は考えもしなかった景色だ。
 サボテンを拾って程なくして、私は転職した。
「よし!」
 何となく酔いも手伝って、私はサボテンに両手のひらを差し出した。
「フラワーレインボーパワー・ウェイクアップ!! 花、咲いて!!」 
 ちょっとしたお遊びだ。こんなので咲いたら……――って!?
「えっ、ウソ!? 咲いた!!」
 可愛い花がちょこんと姿を現した。このサボテンのメンタル、もしかして小学生女子並!?
 慌ててスマートフォンを取り出す。動かないサボテンに連続シャッターを切る。浮かれた私と花の冠を乗っけたサボテン。
 夏の宵の口、シャッター音が部屋に響いた。

テーマ; 花咲いて

7/22/2024, 1:57:54 PM

→トロッコ鉄道員  (2024.7.23 出典追加)

 線路の分岐器係の彼に、今日もまた新たな指令が下される。
「右に切れ」
 二股の線路の先には、右に一人の作業員、左に5人の作業員が脇目も振らずに線路上の作業に没頭している。
 トロッコは勢いを弱めることなく突き進んでゆく。
 その結果たるや、言わずもがなである。

 次回には何事もなかったかのように線路の作業員が補充されている。分岐器係の彼もまた指令に従う。  
 次回も、そのまた次回も……。何度でも続き、線路の作業もまた、終わることなく続く。
 倫理学者という肩書を持つ司令官たちは、彼らのはるか頭上で侃々諤々の議論を交わす。一人を救うべきか、5人を救うべきか。道徳問題として分岐器係員が許されるか許されないか、その意見が一つになったことはない。この議論が終結しない限り、分岐器係員への司令は続く。

 彼が分岐器係員に就いて、もう何十年も経つ。始めこそ動揺していたが、度重なる経験が彼を鈍感かつ無関心にしていた。
 それでも、もしもタイムマシンがあったなら、過去に戻ってこの仕事に就こうとする自分を止めたいと、仕事場に着く前に彼は毎日考えている。 

テーマ; もしもタイムマシンがあったなら


※Wikipediaより
トロッコ問題(トロッコもんだい、英: trolley problem)あるいはトロリー問題とは、「ある人を助けるために他の人を犠牲にするのは許されるか?」という形で功利主義と義務論の対立を扱った倫理学上の問題・課題。


7/21/2024, 3:13:12 PM

→結局自分らどういう知り合いなん?

「今一番欲しいもんって何?」
「神通力」
「はい?」
「パリ万博行ってショウやってな、チヤホヤされんねん」
「パリ……万博? オリンピックちゃうくて?」
「へ!? 何言うてんの? パリ万博や! 徳川のボンが行くンやって。変なこと言うなぁ。五輪は東京やろ? 東洋の魔女や」
「……あー(スマホで調べたろ。徳川って、もしかして徳川慶喜の弟? ほんならパリ万博って1867年のヤツやん。東洋の魔女は1964年の東京オリンピック?? あれっ? せめて年代くらいは合わせようや)」
「自分、それ、何持ってんの? 徳用マッチ箱ちゃうやんなぁ? 若いお人ちゅうんは、何やしょっちゅう新しいモン持っとんなぁ。
――で? 自分は今一番何が欲しいん?」
「……とっ散らかった場をエエ感じにまとめるスキル?」
「すきる? すき焼きの鍋の名前かいな? いきなり鍋の話って、けったいな人やなぁ。まぁええわ。おっちゃんな、エエこと教えといたるわ。鍋いうんは何でも入れといたらそこそこの味になる。とっ散らかっても問題あらへん」
「へー(適当に頷いとこ)」 
「ほな、おっちゃん、行くで。そろそろ銭湯開くさかいな」
「気ぃつけて行っといでなー」
 あっ、エエ感じに纏まったんちゃう? オチないけど。


テーマ; 今一番欲しいもの

7/20/2024, 4:21:37 PM

→短編・たちばな みゆ

たちばなみゆ たちばなみゆ たちばなみゆ
   たちばなみゆ   たちばなみゆ たちばなみゆ
 たちばなみゆ   たちばなみゆ  たちばなみゆ
たちばなみゆ たちばなみゆ たちばなみゆ

 消しゴム えんぴつ 色えんぴつ ノート セロテープ 算数セットのおはじき たいそう服 上履き 通学帽 ランドセル!!

「おかぁさーん! わたしのおなまえね、ずーっと見てたら、わかんなくなってきちゃったぁ」
 入学準備の名前つけを黙々とこなすお母さんの横で、みゆちゃんが大きな声をあげました。
「えー、どうしたんだろうねぇ。ちょっとここに書いてみな」
 お母さんがプリントの裏をみゆちゃんに渡します。
「た」 ナこ
「ち」  ち
「ば」 しず
「な」   ナょ
「み」 み
「ゆ」 |φ
 紙の上に踊る大胆なひらがな。会心の出来とは言い難い出来にみゆちゃんの表情が曇ります。
 美優の人生初ゲシュタルト崩壊だなぁと感慨に浸ったお母さんは、しょげ返るみゆちゃんの頭を撫でました。「文字酔いしちゃったんだね」
「それって車でゲーってなっちゃうヤツと一緒?」
 ますます心配そうな顔のするみゆちゃんを、お母さんはワハハと笑い飛ばします。
「なんて顔してんの! 車酔いもすぐに治っちゃったでしょ? これも同じ。すぐに良くなる!」
「ホント?」
「もちろん! だから楽しいことを考えよう。入学式で着る服、明日買いに行く人!」
「はい!」
 みゆちゃんは片手だけでは足りないと思って両手を挙げました。
 たちばなみゆちゃんの入学式は、もうすぐです。

テーマ; 私の名前

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