一尾(いっぽ)

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→トロッコ鉄道員  (2024.7.23 出典追加)

 線路の分岐器係の彼に、今日もまた新たな指令が下される。
「右に切れ」
 二股の線路の先には、右に一人の作業員、左に5人の作業員が脇目も振らずに線路上の作業に没頭している。
 トロッコは勢いを弱めることなく突き進んでゆく。
 その結果たるや、言わずもがなである。

 次回には何事もなかったかのように線路の作業員が補充されている。分岐器係の彼もまた指令に従う。  
 次回も、そのまた次回も……。何度でも続き、線路の作業もまた、終わることなく続く。
 倫理学者という肩書を持つ司令官たちは、彼らのはるか頭上で侃々諤々の議論を交わす。一人を救うべきか、5人を救うべきか。道徳問題として分岐器係員が許されるか許されないか、その意見が一つになったことはない。この議論が終結しない限り、分岐器係員への司令は続く。

 彼が分岐器係員に就いて、もう何十年も経つ。始めこそ動揺していたが、度重なる経験が彼を鈍感かつ無関心にしていた。
 それでも、もしもタイムマシンがあったなら、過去に戻ってこの仕事に就こうとする自分を止めたいと、仕事場に着く前に彼は毎日考えている。 

テーマ; もしもタイムマシンがあったなら


※Wikipediaより
トロッコ問題(トロッコもんだい、英: trolley problem)あるいはトロリー問題とは、「ある人を助けるために他の人を犠牲にするのは許されるか?」という形で功利主義と義務論の対立を扱った倫理学上の問題・課題。


7/22/2024, 1:57:54 PM