一尾(いっぽ)

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→短編・フラワーレインボーパワー・ウェイクアップ!!

「もうすぐ、咲きます」
 そんな張り紙をされて、このサボテンは捨てられていた。
 夜中の街灯の下、電柱に寄り添うように捨てられていたサボテン。そのビジュアルがあまりに物悲しくて、私はこのサボテンを家に連れて帰った。感傷的だったのだと思う。勤めていた会社が忙しすぎて、サボテンの孤独と仕事に忙殺される自分を重ねた。だから、救いたかった。
 あれから1年、サボテンはまだ咲いていない。
 もしかして見逃したのかなとか、環境があってないのかなとか、スマートフォンでサボテンの育て方を調べながらの1年はあっという間だった。
 そして今年、ようやく蕾がついた。ちょっとした感動。
「まだ咲かないね~」
 夕方、仕事を終えて帰宅した私はサボテン相手に晩酌を楽しんでいた。
 夏の夜空はまだ夕暮れの紫を空に残している。1年前は考えもしなかった景色だ。
 サボテンを拾って程なくして、私は転職した。
「よし!」
 何となく酔いも手伝って、私はサボテンに両手のひらを差し出した。
「フラワーレインボーパワー・ウェイクアップ!! 花、咲いて!!」 
 ちょっとしたお遊びだ。こんなので咲いたら……――って!?
「えっ、ウソ!? 咲いた!!」
 可愛い花がちょこんと姿を現した。このサボテンのメンタル、もしかして小学生女子並!?
 慌ててスマートフォンを取り出す。動かないサボテンに連続シャッターを切る。浮かれた私と花の冠を乗っけたサボテン。
 夏の宵の口、シャッター音が部屋に響いた。

テーマ; 花咲いて

7/23/2024, 4:14:14 PM