一尾(いっぽ)

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7/4/2024, 12:32:00 PM

→テツガク的な。


神様はどこから来たの?

人間を作ったのは神様
神様を作ったのは人間
あなたは存在しますか、しませんか?
テツガクって面白い

『神様だけが知っている』

神様vs ソクラテス
どっちが勝つのかな?

テーマ; 神様だけが知っている

7/3/2024, 3:24:07 PM

→短編・最重要案件     (2024.7.4 改稿)

 夜中、低い唸り声で目が覚めた。唸り声の正体は隣で眠る夫だ。どうやら悪い夢を見ているらしい。
 仕事のストレスかもしれない。彼の話を聞くに、大きな案件が動き出しているとか。彼も関わっているそうで気の張る場面が多いと言う。
 薄暗闇の中でも夫の眉間に深いシワが刻まれていることに気がついた。鼻についた眼鏡跡も歪んでいる。
 夫が「うぅん!」とひときわ大きく唸った。「こんな決定が株主総会で通ると思っているんですか?……」
 案の定仕事の夢を見ている。かわいそうに、起こしてあげよう。寝ぼけながらもそう思った矢先、夫は声を荒げた。「この道の先には、ラッコバトルしかありません……」
 ん? 何か聞き慣れないファンシー且つ荒々しい単語が聞こえたような? ラッコバトル?? イヤイヤ、まさか! 
 私の寝ぼけていた頭はもうフル回転だ。
 寝言にも関わらず、夫は周囲を諭すことを意識した低い声で言った。「これは我が社の最重要案件です。ラッコちゃんから貝殻を奪わないでください」(キリッ)
 やっぱりラッコかい! どんな業務内容なのよ? 取引先、水族館なの? ストレスで現実逃避的してるのかな?
 それだけ言い切ると、彼は健やかな寝息を立てだした。やり切った感があふれ出ている。私は完全に目が覚めたというのに! 
 スマートフォンで時間を確認すると早朝4時だった。
苛立ち紛れに夫を起こしてやろうかと思ったが、ある考えに私はニヤリとした。冷蔵庫の食材を脳裏に思い浮かべる。
「及ばずながら、その最重要案件お手伝いしましょう」
 眠る夫にそう囁いて、私はベッドから起き出した。

 昼休み。私は自分のデスクでメガネを外し、目頭をきつく指で摘んだ。
 午前中は散々だった。上役と現場の睨み合いが続いている。中間管理職の私は板挟み状態で、体の良いサンドバッグにされている。多くの人間が関われば、それだけ意見の数も増える。この道を行けばあの道が立たず、あの道を行けばこの道が立たず。シンプルな解決策のある仕事なら、こうも悩むことはないのだが。
 気持ちを切り替えよう。今日は久しぶりに妻が弁当を持たせてくれたのだ。新婚時代、料理が趣味の彼女は毎日弁当を作ってくれた。いつしか得意先と昼食をともにする機会が増え、子どもたちの弁当作りがなくなり、妻の仕事に外回りが多くなり、気がつくと私の弁当はなくなっていた。
 懐かしい弁当箱を前に気分が高まる。妻の弁当にハズレはない。それに甘えた結果、私の料理スキルは未熟のままだ。そう遠くはないセカンドライフのために料理を習おうかと妻に相談するも「そのうちに教えてあげる」とかわされてしまった。
「何だこりゃ?!」
 弁当箱を開けた私は素っ頓狂な声を上げた。隣のデスクの部下が身を乗り出して、私の弁当を覗き込んだ。
「あ、すっげぇキャラ弁。なんとかバスターズってヤツっすか?」
 禁止マークから2匹のラッコらしき動物が顔を突き出し、それぞれが手(ヒレ?)に持つ貝殻をぶつけ合っている。
 何だ? どうした? なぜラッコ??
 一面の白飯が敷き詰められた上に海苔やら紅生姜やら椎茸の佃煮やら使える食材全てを使って作られた可愛らしい2匹のラッコ。
 見ているうちに笑いがこみ上げてきた。どういう意図か分からないが、彼女らしいユーモアあふれる作品だ。
 なぁ、ラッコたち? そう争うなよ。私は弁当の蓋に彼らの武器である貝殻を取り除き、手を繋がせるよう海苔で小細工を施してみた。禁止マークの斜め線も外してしまう。
 今や2匹のラッコは手に手を取って仲よさげだ。
「あれはオバケじゃなかったか?」
 部下にそう答えた私の声は驚くほど軽快だった。何かの重みから解放された気分だ。
 弁当に箸を入れると、白飯の下におかずが仕込んであった。私はラッコの貝殻をいちばん最後まで残した。なぜかはわからないが、ラッコたちに貝殻を食べる自分を見せたくなかった。貝殻はかまぼこでできていた。
 午後もまた戦場だ。しかし今ならどんな厄介事もやり抜けそうな気がしている。

テーマ; この道の先に



7/2/2024, 6:12:43 PM

→短編・何でもない日、三日月と白茶

 梅雨の晴れ間に、天蓋ベッドのエーテル布を天日干ししました。お客様に良い眠りをお届けする大事な作業です。
 ベッドを整える作業は僕と息子の2人がかりとなります。脚立に上がり4箇所のフックに布をかけるのは僕が行い、息子は下で布をさばきます。
 ん? 布が重い。その違和感に僕は下へと注意を向けました。
「引っ張ってませんか?」
「きゃあ!」
―コロン
 一足遅かったようです。彼の小さな手が掴んでいたエーテル布から外れてしまい、尻餅をついてしまっています。
「引っ張ってませんよぅ。風がいたずらしたんです」
 エーテル布はとても薄くとても軽く、空気を巻き込みやすいのです。不可視の天体構成元素に可視光線を通すことによって織った布の特性だと父から聞いたことがあります。
 僕は脚立を降りて、彼に手を貸して立ち上がらせました。「困った風ですね」
 息子はズボンのお尻を何度も叩き、僕を無視しました。恥ずかしかったのでしょう。ほんのり染まるその頬に彼の気位が現れています。
「そろそろお茶菓子を用意しましょうよ」
 何事もなかったかのように彼は次の作業の話をしました。やれやれ、やっぱりプライドの高い子だなぁ。
 僕たち一族は代々宿屋を営んでいます。僕の父もそのまま父も、そのまたまた父も、ここでお客様をお迎えしました。そしていつでも従業員は一人か二人と決まっています。
 僕は息子が来た日のことを覚えています。ちょうど2年前のことです。6月の梅雨空が一瞬だけ晴れた日、雲のフィルターが淡い日差しを作っていた日に、小さな彼は宿屋の戸口に立っていました。
「はじめまして、お父さん。僕が来ました」
 僕たち一族は、時代の変わり目に新しい子がどこからかやってきます。僕もそうでした。三日月の夜にこの宿屋の扉を叩きました。そしてどこから来たかは誰も覚えていません。
 僕の知らないことを、幼いながらも彼はたくさん知っています。彼の価値観が新しい風を運びます。
 彼は宿屋の業務をあっという間にDX 化しました。IT ビッグウェーブです。新しい時代かくやあらん。お客様のおもてなしに多くの時間を使う余裕が生まれました。
 僕たちは、いつお客様がいらしても良いように、数種類のお茶菓子を用意します。雲母の色紙に玻璃の黒文字。レース陶板、オーロラの器。茶器もさまざま。薄氷ガラスのコップ、深海土の珈琲カップ。先代たちが方々から集めた品々はどれを取っても唯一無二の美しさです。
「お菓子の用意が終わったんで夜の灯りの手配をしようと思うんですけど、釣鐘草に灯りを仕込んでもいいですか?」
「素敵ですね。夕顔にはまだ早いですからね」
 僕の答えを彼は聞いたでしょうか? それともただ尋ねただけなのかな? 彼の姿はとっくに炊事場から消えていました。息子は時間と効率を大事にしています。新しい時代の人だなぁと、のんびり屋の僕は感心しっぱなしです。
「さてと――」
 僕も動こう。庭や玄関を掃き清める。一日に何度も。心を込めて。
 この宿屋は、多くのお客様が訪れるような場所ではありませんし、いつおいでになるのかも不明です。何かの拍子、例えば商店街の路地横や、雨の後の水たまりの中、夢の狭間、そんなところにある宿屋です。ここを見つけたお客様はおっかなびっくりいらっしゃいます。
もうすっかり夜更けです。僕たちは事務所に腰掛けて夜のおやつタイムを取っていました。
「今日はお客さま、いらっしゃいませんでしたねぇ」
 そんなことを言いながら、息子は三日月きんつばにかじりつきました。このきんつばは先代である父のお気に入りでした。三日月の形をしたそのお菓子をさも大事そうに食べる彼の姿を今でも思い出します。これといって特徴のない普通のきんつばなのですが、まるでそのお菓子が万能の霊薬であるかのように神妙な顔で味わう父を僕はよくからかってものです。
「まだわかりませんよ。すべてはお客様次第ですから」
 僕は白茶を啜りました。このお茶は6月の晴れ間茶です。文字通りとても色の薄いお茶です。柔らかい香りと甘い風味が僕を癒します。6月の日差しの中に立つ息子を思い出させる、僕にとって特別なお茶です。
「そのお茶、好きですねぇ。その真剣なお顔!」
 僕の胸中などお構いなしに、息子がクスクス笑っています。
 その彼の背後にキラリと何かが光ったのを、僕は視界に捉えました。それは窓の向こうの夜空にかかる三日月でした。僕の脳を稲妻が打ちました。
「あぁ……!」
「どうしたんです?」
 僕の感嘆の呟きに息子がキョトンとしています。僕は再び6月の晴れ間茶を口に含みました。父と三日月きんつばを思いながら。 
 束の間、僕は息子にこの発見を話すか否かを自問自答しました。
「何でもありませんよ」
 息子には内緒にしておきましょう。
 いつか彼にも訪れる何でもない一日のために。

テーマ; 日差し

7/1/2024, 1:35:19 PM

→いつでもお越しください。

窓越しに見えるのは 宵越しの灯り
宵待草を燭台に 小さな蝋燭を立てました
昼も夜も 灯りは絶やしません
午睡にいらっしゃい エーテル天蓋のベッドをどうぞ
読書がお好き? ひぐらし声の文机がございますよ
薄氷ガラスに麦茶を
レース陶板に四季折々の和菓子を
どうぞ ご遠慮なく

予約はいりません
心よりお待ち申し上げております。

テーマ; 窓越しに見えるのは

6/30/2024, 3:15:08 PM

→運命の幕間に佇むひと

嗚呼、後生でございます。
何卒かように強くお引きにならないでくださいまし。

テーマ; 赤い糸

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