ただひとりの君へ
唯一の肉親である母が亡くなり、遺品整理をしていると『ただ1人の君へ』と書かれた封筒を見付けた
宛名は明記されていないが、肉親は俺だけだから封を開けた
中には3枚の便箋が入っていた
手紙を読み進めていくにつれて涙が溢れる
『身体には気を付けて』
そう締めくくられた手紙を握り締め、泣き崩れた
大人になってこんなに泣くとは思わなかった
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明日に向かって歩く、でも
明日に向かって彼と歩く
そう決意した
でも…怖い気持ちはある…
『同性婚』という一般的とされるカテゴリーから外れた俺達を世間は後ろ指をさすだろう
それでも俺は…俺達は共に歩むと決めた
俯く時もあるだろう、苦しむ時もあるだろう、それでも俺達は笑って明るい未来を歩んでいく
透明な涙 風のいたずら
結構 強い風が吹き、土埃が舞う
土埃が収まると隣にいる彼女が透明な涙を流していた
「どうした!?」
慌てて彼女に声をかけると彼女は「土埃が目に入ったぁ」と目を擦る
「擦るな!
傷ができる!」
彼女の手を掴み、彼女と目を合わせるように屈む
じーと目を見つめる
彼女も俺を見つめ、首を傾げる
「とりあえず目を触るぞ」
「うん…」
了承を得てから下瞼を下に引っ張り、あっかんべーをさせる
「ん、大丈夫そう」
「ありがとう」
ニコッと笑う彼女に俺も笑顔を返した
風のいたずらで初めて彼女の涙を見る事になったが、やっぱり笑顔の彼女が好きだと思った
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手のひらの宇宙
彼女の誕生日にプレゼントしようと一生懸命スノードームを作る
スノードームと言っても雪の情景を模したものでは無く、宇宙を模したものだ
スノードームキットを使って手のひら大の宇宙を作る
最後に隕石に見立てたホログラムを入れ、精製水を入れて蓋をきつく閉める
ドキドキしながらスノードームを立てるとホログラムが降って綺麗だ
これは喜んで貰えそうだと胸を撫で下ろす
あなたのもとへ
今日の仕事を何とか巻きで終わらせ、新幹線に飛び乗った
「今 新幹線に乗ったよ」
彼にそうLINEを入れて、窓から外の景色を眺める
貴方の元へ向かうこの胸の高鳴りに落ち着かない気持ちになる
(早く会いたいな…)
彼の笑顔を想像して口角が上がる
まだ見ぬ景色
旅先ではいろんな出会いがある
人だけではなく料理や景色
私が1番 楽しみにしているのは景色
まだ見ぬ景色に出会うために今日も一人旅に出る
そっと
そっとドアを開け、外に出る
外はまた暗い
「はぁ、さっむ…」
身震いする程の寒さに肩をすぼめる
できるだけ音を出さない様に鍵を閉めてポケットに手を入れて歩く
街灯が等間隔に立っており、それぞれが地面を照らしている
真っ黒な空に点々と輝く星と存在を主張するように輝く満月を見上げながら、そこを歩く
はぁ、と息を吐くと息が白く見える
ポケットに入れた手がブブッと振動した
振動したスマホをポケットから取り出すとロック画面にLINEの通知が表示されていた
通知をタップすると個人のトークルームに移動し、1番下に『今から帰るよ』と表示されている
それに「駅で待ってる」と返事を返し、スマホをポケットに入れる
夜中の散歩が愛しい彼女を迎えに行く事に変わった
星のかけら 未来への鍵 あたたかい
“星のかけらを集めると未来への鍵が手に入る”
抽象的な言い伝えを信じ、1人旅に出た
10年ほど旅をしてわかったことがある
“星のかけら”とは様々な人との出会いと別れであり、“未来への鍵”とは人との繋がりだと
「人とは温かいものなんだな」
最近、そう思うようになった
それに気が付けて俺は良かったと思う