嗚呼
図書館で課題を進めていると後ろから「あ」と女性の声が聞こえ、思わず振り返った
振り返った先には笑顔で手を振る美人がいた
(誰だ?
というか誰に手を振ってるんだ?)
頭に疑問符しか浮かばない俺に気が付いた彼女は、怒ったように俺に向かってつかつかと歩いてくる
「もう、なんで気が付かないのよ」
腰に手を当てて頬をぷくっと膨らませる彼女の仕草は俺の初恋の人を想起させる
「さっちゃん…」
思わず零れ出た名前に彼女はニコッと笑った
彼女の笑顔は俺が恋焦がれた女性の笑顔そのままだった
(嗚呼、好きだ… )
心の奥底にしまい込んで気が付かない振りをしていた気持ちに気が付いてしまった
ーーーー
願いが1つ叶うならば
願いが叶うならば代償に何を差し出してもいい
そう思えるほど叶えたい願いが1つだけある
それは…
「ママー!!」
遠くから手を振りながら満面の笑顔で走ってくる娘
愛しくて堪らない彼女を抱き締めようと広げた腕を閉じた
その時、そこにあるはずの温かみは霧のように消えた
その代わりにとでも言うように目の前に広がる赤い海と小さな掌
「いやぁーーーーーーー!!!!」
泣き叫び、目が覚めた
バクバクと早鐘を打つ心臓と真逆で身体は芯まで冷えている
どれだけ時が経とうとあの瞬間を忘れる事は出来ないんだと嫌でも理解させられる
大きく深呼吸を繰り返し、何とか落ち着けようと努力していると温かい何かが私を包み込んだ
「大丈夫だから」
隣で寝ていた夫が抱き締めてくれたのだと解ると彼に身体を預ける
自然と彼の胸に耳が当たり、とくとくと一定に刻まれる心音に安心感を抱く
「寝ようか」
「そうね…」
私が落ち着いたのがわかると優しく声をかけてくれ、一緒に布団に入る
「悪夢を見ませんように」と願いながら目を閉じる
交通事故で亡くなった愛娘を返して欲しい
それが私が願うただ1つの願い
ひらり
満開の花が咲きほこる梅の木
赤、白、ピンク、色とりどりの梅の花を眺めながら散策を楽しんでいるとひらりと花弁が1枚 舞い落ちた
「儚いけど綺麗だな…」
目を細め、思わず呟いたら「私もそう思うわ」と柔らかい声が後ろから聞こえた
驚いて振り返ると柔和に笑う女性が立っていた
「えっと…」
どうしていいかわからなくて言葉に詰まっていると女性は「ごめんなさいね、思わず返事をしてしまったわ」と口元に片手を持ってきてふふふと笑った
「散策ですか?」
「えぇ、梅のいい香りがしたから誘われて」
「そうなんですね」と答え、女性の隣に並んで花を見上げる
その後は何の会話もなかったが、女性の隣は居心地がよかった
一輪の花
「好きです!
同じ気持ちなら受け取ってください!」
そう言って差し出された手には一輪の花が握られていた
その花は君と出会った時に私が「好きだ」と言った花だった
「ありがとう」
感謝の言葉を伝えてその花を受け取る
彼はほっとしたように1度 息を吐くと綻ぶ笑顔を見せてくれた
「これがお母さんとお父さんの馴れ初めよ」
「ふーん」
自分で聞いておいてもの凄くどうでもいいというような息子の返答に夫と苦笑いする
家族3人、いやもうすぐ5人になるこの家には1番 目につく所に花瓶を置いている
そこに生けてある花はもちろんあの花だ
魔法
保育園を卒園する時、将来 何になりたいかを発表した
『お花屋さん』
『ヒーロー』
『看護師さん』
『お医者さん』
次々と友達が発表して行き、最後 私の順番になった
私は台の上に立ち、大きく深呼吸をした
「私は魔法使いになりたいです」
いろんな人が拍手をしてくれたのが凄く嬉しかった
私は魔法使いの夢を叶えられるようにこれから頑張っていくと改めて思った
あなたは誰
ここ数日、同じ夢を見ている
その夢には必ず男の子が出てくる
毎回 男の子の顔は分からない
「あなたは誰…?」
男の子に聞いてみるが微笑んでる雰囲気はわかるが、名前はわからなかった
それが嫌だとかではなく、嬉しいと思う自分に男の子に好意を抱いてると解った
男の子の正体はわからないけど、彼といるこの時間は特別だ
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ひそかな想い
「兄ちゃん、兄ちゃん」
「どうした?」
私がててて、とかけ寄ると兄ちゃんは笑顔で迎えてくれる
あー、やっぱり好きだなぁとしみじみ思う
「わっ!」
わしゃわしゃ!っと髪をかき混ぜられた
それが兄ちゃんの照れ隠しだと知っているから余計に嬉しい
密かな想い人の兄ちゃん
いつかこの想いを伝えられたらいいな