届かない……
どんなに想っていても彼女には届かない
それでも想い続ければいつか叶うと思っていた
この時までは…
「晶、私 結婚するんだ!」
「え…」
想い人からのその言葉に俺は固まった
氷水を頭からかけられたように身体の芯から冷えてカタカタと身体が震えるのを堪えきれなかった
「そうなんだ!
良かったじゃん!」
何とかそれだけ絞り出すが、ちゃんと笑えているか自信が無い
その後 何を話したのか全く分からないけど、気が付けば自室に居た
(千弦姉ちゃん、結婚するんだ…)
ようやく現実を理解できた俺はその場で泣き崩れた
赤子のようにわんわん泣いて、気が付けばラグの上で蹲っていた
痛む身体を引き摺るように洗面台に行き、鏡を見ると真っ赤に腫れた目の俺が映っていた
(初恋は叶わないって本当なんだな…)
そう思うと自嘲気味に笑い、冷水で顔を洗う
腫れて痛い目に冷たい水が気持ちいい
想い続けても届かない事もあると知った時だった
木漏れ日
大雨が降った翌日、学校を抜け出して裏山に行った
木々が立ち並ぶそこは居心地の悪い学校や家とは真逆の居心地のいい場所
そんな居心地のいい場所の中でもお気に入りが木々の間から木漏れ日が降る場所
そこに持ってきたレジャーシートを敷いて寝転がる
目をつぶり自然の音を聞いて楽しむこの時間が1番 好きだ
ラブソング
カラオケに行くと必ず歌うラブソングがある
それは私の十八番であり、青春が詰まっているから恋をしていなくてもよく聞く
今までも、これからもずーと私の十八番であり続ける
そんな気がしつつ、今日もカラオケで大熱唱する
風と
風が木を揺らし、花弁が舞う
それが花吹雪のようで綺麗だ
風が止むと今度はゆっくりと花弁が舞い落ちる
「酒が進むな…」
花見酒を楽しむ
それが今の楽しみだ
軌跡
死のう、そう決めた時に無性に生まれ育ったあの地に行きたくなった
有り金を全て使い果たして向かったあの地
都会のように高い建物なんてほぼない
プライバシーなんて欠片もない
ドが付く田舎
そんな田舎についた
見渡す限り記憶の中のそれと変わらないその場所に何とも言えない気持ちになった
目的もなくただただ歩き回る
(ここは実家があった場所)
(この道は通学路)
(ここは小学校)
(この道は…)
ただ歩いているだけで頭に鮮明に浮かぶ懐かしい記憶
それを一個一個 確かめるように辺りを見渡しながら歩く
それはまるで自分の軌跡を辿っているようだった