「ねえ、お祭り一緒に行こうよ。」
君の誘いに喜んだ俺はバカだった。まさか、学童の子どもたちがこんなに来るなんて、思わないじゃないか。
「遠くにいっちゃダメだぞ!」
一生懸命に声を振り絞るが、10人からの小学生が、大人しく従うわけがない。
やれ金魚すくいだ、やれ型抜きだとあっという間にバラバラになってしまう。
俺は金魚すくいをしている子どもたちを横目に見ながら、綿菓子を買おうとしている女の子の側についていた。
その時だ。花火のドーンという地の底から響くような音が、俺たちを覆った。
「花火だ!!」
子どもたちも、屋台から離れて花火に魅入っている。
「花火見るんなら、あっちの土手のほうがいいよ。」
俺が言うと、子どもたちは騒ぎながら土手のほうに走っていく。
しばらくは、その場を離れないだろう。ホッとして彼女を探すと、ニコニコしながら花火を眺めている横顔が見えた。
「ごめんね、手伝わせちゃって。ありがとう。」
「うん、いや。」
俺は口ごもりながら、彼女の横に立った。花火は続いている。
「東京には明日帰るんだよね?」
「うん。」
寂しそうな横顔を見て、俺は思わず彼女の手を握った。
「!」
しかし彼女は、驚いたように、俺の手を振り払ってしまった。
「ご、ごめん…。」
性急すかざたか。しょんぼりしている俺に、彼女は言った。
「子どもが見てるから…。」
「え?」
それはつまり、子どもが見てなきゃOKってこと?俺は俄然やる気が出た。
【お祭り】
「あ、すいません…。」
俺は通行人を避けながら、交差点に落ちていたゴミを拾った。
誰かのためになるならば、と思って続けてきた習慣だが、中には不審者でも見るような、うろんな目で俺を眺める奴もいる。
近所のじいさんは、よく声をかけてくれるが、区の吸い殻パトロールの親父は、ライバルが出現したとでも思うのか、完全無視だ。
小学校の旗振りのオヤジも、俺を見て見ぬふりをする。
「何でそんなことしてるの?」と、明らかに不審の目を向けてくるやつもいる。
だが、俺の毎朝の働きのおかげで、カヤが生え放題だった都会の交差点は、すっかり綺麗になった。
いいことをして何が悪い!と俺は言いたい。善きことに不審な目を向ける奴は、魂レベルが低いんだと思っている。
【誰かのためになるならば】
夫が帰る時間だ。私はため息をついた。
あなたに会えなくなって何日になるだろう。まるで何年も会ってないかのように思える。
この鳥かごのような環境に、手を差し伸べてくれた唯一の人。会いたいという思いだけが募っていく。
そんな私の気持ちにはおかまいなしに、日々の仕事は流れていく。
【鳥かご】
つつじの花が咲いている。昔通った通学路には、ユスラウメも豊富に実っていた。
つつじの花の蜜もユスラウメも、長い通学路の空腹を満たしてくれるおやつだった。
酸っぱいイタドリや道に垂れ下がっている枇杷も、子どもには格好の獲物だ。私は何だって食べた。
喉が渇いたときに、水道水を飲ませてもらっていた鍛冶屋を覚えている。
中学生になると、自転車を使うことを覚え、道端の植物をむさぼることはなくなってしまった。
さらに高校生になると、小遣いを握りしめてお好み焼き屋や安いケーキ屋に出入りするようになる。
しかしお金のいらない道端のおやつの思い出は、今でも私の気持ちを豊かにさせる。
【花咲いて】
もしもタイムマシンがあったなら、私は間違いなく、あの夏の日に行くだろう。
まだ家族がみんなで暮らしていて、誰も何ものでもなかった、あの夏に。
灼熱の太陽のもとで自転車を駆った、あの暑い暑い夏に。
ほんの半年後には、みんな離れ離れになってしまったけど。それでもあの夏だけは、一つになって駆け抜けた。
今なら、どんな未来を選ぶだろう。あの日の私は、今の自分より幸せになっていけるだろうか。
【もしもタイムマシンがあったなら】