空は快晴のお出かけ日和。
さて、何処まで行きましょうか?
あの鉄塔の向こう?
あの遠くに見える紫峰の麓?
今日はごちゃごちゃとした思考を御休みさせて
風吹くままに風任せ
心赴くままの運に身を任せ
気まぐれなお出かけと洒落込みましょうか。
失われた時間…(゜゜)
失われた=「失う」の受け身。
あったものが無くなること。
特に自分が手を下したのではく、
他の要因によってなくなってしまったさま。
何かあったかなぁ…。
…。
…あぁ、あった。
ミヒャエル・エンデの「モモ」。
時間泥棒から時間を取り戻す物語だ。
葉巻男たちによって奪われ、失われた時間はあるので、テーマからズレていないはず…多分。
後は、「アンチモネシア」。
亡国の歌だからテーマからはズレていない…はず。
二つとも壮大で、好きな作品だ。
「モモ」
モモは児童書と思って舐めてはいけない。大人こそ読むべき物語だと思っている。
コスパ、タイパに追われる現代、時間泥棒はさぞかし大喜びだろう。
時間節約こそ、本当に「良い暮らし」?「将来のためになる」?
本当の意味での生きることとは何かをモモが教えてくれる。
忙しい時にこそ読みたい物語だ。
「アンチモネシア」
夜深くにヘッドホンで聞くと、遠くへトリップ出来る音楽。
機械音が多く使われているのに、どこか懐かしく、物悲しい旋律。
寄りそうような優しい歌声に、伝説の国へ思いを馳せてしまう。
まだ、在る。まだ、居る。と答えるのは…この音楽に触れた人達なのだろう。
子供のままで。
…(゜゜)ピーターパンシンドローム?
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子供の頃は早く大人になりたかった。
自分のことは自分でして、
人生の選択すら自分でしていく。
そういう事を自由に行えて、
尚且つ、精神も円熟の境地に達し
正しい選択が出来るのが大人なのだと、
そう思っていた。
大人になった今、
未だにたった一つの選択すら誤ってしまう。
生きるのが下手故か、はたまた、どこか大人になりきれない精神が子供のままでいる弊害か。
思い描いていた精神の円熟は程遠い。
愛を叫ぶ…(゜゜)…世界の中心で?
困った…。
…。
それぞれのキャラに聞いてみよう。
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屋上にて。
「愛を叫ぶ?叫んでどーすんだ?」
学生服を着た青年は、意味がわからないと顔を顰めている。
「さあ?叫べば通じるとでも思ってるのかしらね」
青年の隣にいる学生服姿の少女は、表情も変えずに淡々とした口調で言った。
「人のこと言えねぇけど、お前って相変わらず冷めてるな」
「そうかしら?」
眼鏡の奥にある瞳は氷のように冷たい。
童話の金のガチョウで笑わない姫というのが居たが、その姫の目より絶対、目の前の彼女の方が冷めているという謎の自信がある。
「誰かがお前に愛を叫んだところで、お前には通じないんだな」
「五月蝿いから黙れとは言うわよ」
「怖っ」
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研究所にて。
「愛を叫ぶ?何だろう。こう言うとおじさんくさいけど、青春だね」
研究所の主は、のほほんと言った。
「青春ですねえ」
返事をする助手も、のほほんとしている。
「君は、好きな人に愛を叫ばれたいとか思わないの?」
「叫ばれるより、囁かれたいですね。うるさいのはちょっと…」
恋愛モノでありがちなシチュエーションなので、女性は好むものと思っていたが、違う人もいるようだ。
「なるほどね。これって、言ってる本人は気持ちが盛り上がっちゃってるだろうけど、受け止める側が冷静だとすれ違いそうだよね」
諸刃の剣だ。と研究所の主は苦笑しながら呟いた。
モンシロチョウが飛んでいる。
研究所の一角に設けられた花壇の周りをふわり、ふわりと舞う様は実に気ままだ。
花への水やりを中断して、モンシロチョウを目で追う。
この前見かけたのは、アオスジアゲハだった。
花壇近くを通って、研究所の入り口付近へと姿を消したあの蝶の蝶道と重ならないのだろうか。
風に戯れるモンシロチョウは、蝶道なんぞ何のそのと言わんばかりに自由に飛んでいる。
そういえば、モンシロチョウには蝶道というものが無いと聞いたことがある。
蝶道というのはアゲハ蝶の仲間に見られるものらしい。
蝶道の目的は、繁殖の為や餌の為と言われているが、未だ明確な答えはない。未知のベールに包まれている状態だ。
案外、あんな自由そうに見えるモンシロチョウも、蝶同士ならではの何某かの暗黙の了解を心得ており、それを侵さないよう気を付けて飛んでいるのかもしれない。
ただ、自分たち人間が知らないだけで。
人の目に見えないものというのは、この世界に多くある。
アゲハチョウの仲間たちが見る蝶道の姿も見えなければ、普段聴く音楽の音も、テレビやスマホの電磁波も人には見えない。
視覚に頼りがちな僕たちは、見えるものだけを信じて見えないものは信じないという傾向がある。
見えないものは、見えないから無い。
それでも自然の中を生きる彼らには、見えているものが確かに存在している。
見えるものばかりを気にして、見えないものをますます見えなくしてしまうのも人だ。
けれど、見えないものを見ようと、努力するのもまた人だ。
花壇の周りを飛んでいたモンシロチョウが、優雅に空へと飛び去っていく。
研究所の主は、その光景を愛おしむように眺めていた。