モンシロチョウが飛んでいる。
研究所の一角に設けられた花壇の周りをふわり、ふわりと舞う様は実に気ままだ。
花への水やりを中断して、モンシロチョウを目で追う。
この前見かけたのは、アオスジアゲハだった。
花壇近くを通って、研究所の入り口付近へと姿を消したあの蝶の蝶道と重ならないのだろうか。
風に戯れるモンシロチョウは、蝶道なんぞ何のそのと言わんばかりに自由に飛んでいる。
そういえば、モンシロチョウには蝶道というものが無いと聞いたことがある。
蝶道というのはアゲハ蝶の仲間に見られるものらしい。
蝶道の目的は、繁殖の為や餌の為と言われているが、未だ明確な答えはない。未知のベールに包まれている状態だ。
案外、あんな自由そうに見えるモンシロチョウも、蝶同士ならではの何某かの暗黙の了解を心得ており、それを侵さないよう気を付けて飛んでいるのかもしれない。
ただ、自分たち人間が知らないだけで。
人の目に見えないものというのは、この世界に多くある。
アゲハチョウの仲間たちが見る蝶道の姿も見えなければ、普段聴く音楽の音も、テレビやスマホの電磁波も人には見えない。
視覚に頼りがちな僕たちは、見えるものだけを信じて見えないものは信じないという傾向がある。
見えないものは、見えないから無い。
それでも自然の中を生きる彼らには、見えているものが確かに存在している。
見えるものばかりを気にして、見えないものをますます見えなくしてしまうのも人だ。
けれど、見えないものを見ようと、努力するのもまた人だ。
花壇の周りを飛んでいたモンシロチョウが、優雅に空へと飛び去っていく。
研究所の主は、その光景を愛おしむように眺めていた。
5/10/2024, 2:35:49 PM