深く、くらい海の夢を見た。
どこか遠くの見知らぬ島で小さな村に身を寄せ合うように生きる人々がいた。
その島にいる子供はたったの五人。
村長の子である兄妹、大人しい男の子に可愛らしい女の子、彼ら四人は村の庇護の中で暮らしていた。
最後の一人は賢い少女、老爺とともにどこからともなく島に現れ村の外で暮らしていた。
子供たちは大人にないしょで島の中を駆け回り、老爺にひみつで彼の知識を身につけていった。
そんな彼らの愉快な毎日はとある新月の夜に終わりを告げた。
村に煌々と灯された篝火が海を照らす。暗くぬらりとした闇を切り裂くものなど今まで無かったというのに。
しろく波と泡を撒き散らしながら現れたのは人の身の丈を優に超える巨蟹だ。大人の胴ほどもあるハサミを振り回しては大人たちを切り刻み押しつぶす。
ていねいに、ていねいに。
恨みを晴らすがごとく、執拗に血と肉が撒き散らされる。
(未)
ほうと白い息を吐く。
立ち上るそれはすぐに風に散らされて消えてしまう。
まるで星に紛れてしまったように見えて不思議な気持ちになる。
寂しいような、誇らしいような、どこかむず痒くて手放しがたい、不思議な気持ち。
見上げた空は遥か彼方まで見えてしまいそうなほどたくさんの星が輝いている。
小さく大きく、届きそうで届かない輝きは泣きたくなるほどに綺麗だ。
孤独に潰されそうな心を連れ出した光に目を閉じる。
この孤独も寒さも星空も、何一つ特別なものでは無いはずなのに。
目を見開いて、もう一度星を見上げる。
胸を貫くこの衝動じみた感動は、きっとこの日この夜だけの特別なんだと思えたんだ。
しずかだ。
音のないくらい場所でそんなことを思う。
泡の浮かぶ音も、波の揺らぐ音も聞こえない。静かで寂しい、そんな言葉がここには良く似合う。
一度開いた目を閉じる。
次に目覚めることはないだろう。
そんな確信を抱いたまま降り積もる泥の中へ沈んでいく。
苦痛は遠く、穏やかな眠りに沈んでいく。
ああ、ここはしずかだ。
美しさを称える言葉は沢山ある。
絢爛、優美、優雅、美人に美麗。
それでも足りぬと言葉は増える。
心を動かされるほどの力を、人は言葉にしたがる。
その力を、感動を、誰かへ伝えたいからだ。
大切なあなたへ、親しい君へ、愛しい誰かへ。
私の想いを伝えたい。
そんな心のありかたも、誰かは「美しい」と呼ぶのだろうか。
この世界は理不尽に満ちている。
手に入らないものを求めて彷徨うばかりだ。
この世界は愛に満ちている。
慈しむ心に果てはないのだろう。
この世界は矛盾に満ちている。
傷つく誰かの隣で誰かが笑っている。
この世界は。