『My Heart』
「人間って一生に動く心臓の回数が決まってるらしいよ」
「なんですかいきなり」
「テレビでやってたんだ。15億回位って言ってた」
「はあ………貴方、人間の1日の心拍が何回なのか知ってますか?」
「え?う〜ん………1万回位?」
「大体10万回ですよ。貴方の言っている事が本当なら計算上40歳位で人間死にます」
「えっ若。俺23歳になったばかりなんだけど」
「だからテレビの言ってる事はデm」
「俺死にたくない!!!!」
「ちょっいきなり抱きしめないでください!!!」
「結婚してまだ1年ちょっとしか経ってないのにお前とあと20年もいられないのは嫌だーーーー!!!!」
「話聞いt」
「俺が死んだら3年もお前の事1人にさせちゃうじゃねーか!!!ずっと2人でしわくちゃになるまで生きてーよーーー!!!!」
「人の!話を!!聞いて!!!ください!!!!」
ああ、やっぱりテレビが言っていた事は嘘っぱちだ。
本当だったら、私はとっくに死んでいる。
出会った時、結婚した時、そして今だって。
どうか私から鳴る鼓動が貴方に聞こえませんように。
彼の大きな体に包まれながら、そう思った。
『1000年先も』
彼女が、死んだ。
交通事故だった。
飲酒運転に巻き込まれて呆気なく逝ってしまった。
会社のパワハラで病み、橋から飛び降りようとした私を止めたのは彼女だった。
何故止めた、私には何も無い、邪魔しないでくれ、と叫ぶ私にビンタをし、
『私はあなたに何があったら分からないけど!人間生きてれば何とかなりますから!!死んじゃダメです!!!』
初対面なのに泣きながらそう叫んだ彼女の顔を今でも覚えている。
泣きながらその場で全てを話しても彼女は憐れむ事をせず、全てを聞いてくれた。
『そんな会社辞めちゃいましょう!大丈夫です、私も手伝いますから!』
それが、彼女と私の出会いだった。
私の身に何があろうと彼女は私の側にいてくれた。
火事に巻き込まれ顔を火傷した時も、彼女は私から離れなこった。
『火傷の跡ってカッコいいじゃないですか。男のクンショーって奴ですよ!もし気になるなら眼帯とかどうですか?』
私は彼女に救われていた。
だからこそ、恐ろしかった。
この先、彼女の声や匂い、顔を忘れていく事が何よりも恐ろしかった。
だから私は決意した。
この片付けが全て終わったら、彼女の後を追いかけようと。
葬式を執り行った後、彼女の家族と遺品整理を行った。
片付けている間も、彼女が居ないという事実が私の心を蝕んでいった。
そうして全て片付いて、彼女の両親に頭を下げて帰ろうとしたその時、「あの、」と彼女の母が止めた。
『これ、あの子からの手紙なんだけど『私が死んだら〇〇に渡すように』って書いてありまして………〇〇って、あなたの事ですよね?』
そこから先は覚えていない。私は直ぐに家に帰ると迷いなく手紙の封を切った。
『親愛なる〇〇へ』
『この手紙を読んでいるという事は、私はもう死んでますね?もしもこの手紙を読んでるなら言いたい事があります。』
『私の後を追いかけようなんて真似、絶対にしないでください』
『私は、〇〇に生きてほしいのです』
『これは私のエゴだと分かっています。それでも私は、生きれなかった私の分まで生きて、人生を全うしてほしい。別の人と付き合っても結婚しても私は許します』
『この先、辛い事も苦しい事もあるかもしれません。けれど人間、生きてればなんとかなります』
『だから、貴方は貴方の人生を生きてください。あと、辛かったら忘れても良いですけど、たまに私の事をちょっとでも思い出してくれたら嬉しいです』
『10年後も、100年後も、1000年経っても、〇〇が幸せでありますように!大好きだよ、〇〇!』
『××より 愛を込めて』
流れる涙を拭う事も忘れ、私は手紙を読む。
ああ、これは呪いだ。
こんな事を書かれてしまったら、死ねなくなってしまうじゃないか。
「忘れるか、忘れてなるものか………!」
生きよう。彼女の為に死ぬまで生きて、彼女の為のお土産話を沢山作ってから、彼女の元へ行こう。
「愛してます、××………!」
そうして、私は声を上げて、泣いた。
終わり
この先〇〇は新しい彼女をつくらず、××の事を想いながら生き続けます。
そして××の上からは毎日沢山の花が降ってくるとかこないとか。
『ブランコ』
「ブランコで大車輪ってできるモンなのかね」
「無理だろ」
「できるぞ」
「は?」
「俺ならできるぞ」
「何言って」
「1、2の、3っ!」
ピロン♪
「ん、LINEきたな。何これ動画?」
『ヤバヤバヤバヤバめっちゃ回ってる!!!』
『回ハッハッハッwwwwwファーwww』
『真顔やめダハハハハハwwww』
『いき………いきできなイッヒッヒッヒwwww』
「いやなんだこれ(困惑)」
『旅路の果てに』(ちょっとエッチな描写あるので注意)
事の発端は、商店街のくじ引き。3等にあった米3キロを求めてケンがガラガラを回した結果、何と1等が当たった。
内容は1泊2日の温泉旅行。
ペアで行けると分かり、何気なく彼女_アキ_を誘った。
彼女はインドア派だから断られると思っていた、のだか、
「行きます!行きたいです!」
と食い気味に言われ、あっという間に準備をすると、2人で旅行へ出かけた。
2人で館内を循環し温泉まで時間を潰す。
夜になり、それぞれ露天風呂に入っていく。
「あ"ー………気持ちいいな………」
「星綺麗………」
風呂から出た後は食べた事無い豪華なご飯に舌鼓みを打つ。
「おいしいですね」
「背徳感の味がする………!」
「合法ですから大丈夫ですよ」
そうしてあっという間に夜を迎える。
「今日は楽しかったですね、ケンさん」
「そうですね」
敷布団の上でゴロリと横になるアキをチラリと一瞥すると、ケンは机の上にパソコンを開く。
「え、なんですかそれ」
「別に仕事はしませんよ。今さっき会社から資料を数日以内に送るよう連絡が来たので、その資料をメールで送るだけです」
「別に今じゃなくても良いじゃないですか」
「こういうのは今終わらせたほうが楽なんですよ」
「ていうか何でパソコン持ってきてるんですか」
「念の為ですよ念の為。とにかく数分で終わりますのでちょっと待っててください」
そう言いながらケンはパソコンに向かう。
静かな部屋に、タイピング音とマウスのクリック音が響く。
そうしてメールが送られた事を確認すると、ふぅ、と息を吐きパソコンを閉じた。
「終わりましたよアキさん………アキさん?」
見るとアキは布団にくるまり横になって後ろを向いていた。
「私より仕事を優先ですか。そうですか」
「だから仕事ではないですって」
「私にとっては仕事と一緒です。2人きりで旅行行けるから行きたいって私言ったんですよ。今日はめんどくさい女スイッチオンです」
「それ自分で言うものじゃないと思います」
けれど2人の旅行に私用を持ち込んでしまった自分も悪いのかもしれない。
「なんでもしますから機嫌治してください」
「なんでも?今何でもって言いました?」
ミノムシ状態を解除し、ガバッと起き上がり体をこちらに向ける。
あ、しまったと思った時にはもう遅く。
「じゃあ、私の処女、貰ってください」
そう、アキは言った。
「………なんでそうなるんですか」
「なんでもするって言ったのはケンさんですよ」
「いや言いましたけどそれとこれとは話が」
「ナヨナヨした男は嫌われますよ」
「別にナヨナヨしてる訳では」
「男見せてください」
「………」
「もしかして避妊具の心配ですか。それなら私が」
用意してます。そう言おうとした言葉は、布団に押し倒されることによって掻き消された。
「ケン、さん」
「………そんな事を言っていると、悪い人間に襲われてしまいますよ」
こんな風に。そう言うとケンはアキに口付けた。
「ん、ぁむ、んん」
舌を絡ませ、ねっとりと口内を犯していく。
アキの体から力が抜けるまでキスを続けると、ようやく口を離した。
「ケン、さ………」
本当に抱かれる。
そう感じた瞬間、アキの心臓がドッと脈を打つ。
恥ずかしさと、見た事のないケンの顔をみてドキドキが止まらない。
思わず目をギュッと瞑る。
しかし次にきたのは、頭を撫でられる感覚だけ。
そろりと目を開けると、優しそうに頭を撫でてくるケンの姿が目に入った。
「顔赤いですよ」
「あ、え」
「流石に抱きませんよ、今は」
「いま、は?」
「性行為と言うものはお互い準備ができたらするものです。心の準備、できてないじゃないですか。それに君はまだ若い。なので」
心の準備も完璧で、本当に抱かれたいと思った時は、抱いてあげます。
そう耳元で囁くと、「さあ、明日早いから寝ますよ」と笑いながら布団に戻っていった。
(ずるい、大人だ……)
そう思いながらも、アキはさっきまでの行為と、ケンの顔が忘れられず、ドキドキが止まらなかった。
翌朝。2人は何事も無かったかのように旅館を後にし帰路についた。
私たちの関係はどう変わるかはまだ分からないけれど。
この日は一生忘れられないだろう。そう、アキは思った。
終わり
『あなたに届けたい』
『今日アンタの家行くわ』
そう彼からLINEが来たのが数時間前。現在時間は23時。
LINEを返しても未読無視。電話をかけても出てくれない。
「なんかあったんかなぁ………」
今日は付き合ってちょうど1年経つ。だから、家に行くと言われて嬉しかった。
彼が好きなたこ焼きを作って、ちっちゃなケーキも買って、プレゼントなんかも用意しちゃって。
「………あほらし。なおしとこ」
自分だけ浮ついて馬鹿みたいだ。来ないならせめて、連絡してほしかった。
時刻はもう23時半を過ぎていた。泣きそうな気持ちを抑えながらケーキを片付けようとしたその時。
ピンポーン、と間抜けな音が鳴った。
「え?」
自身の思考が動こうとした直後、ピポピポピポピンポーンと連続で鳴らされ心臓が飛び跳ねる。
「なんやなんやなんや怖怖怖」
バクバクなる心臓を抑えながら玄関へ向かう。漫画にこんなシーンあった気ぃする、なんて思いながら扉を開けると。
「すまん、遅れた」
なんて言って、荷物を持って、少しだけ服がボロボロになりながら気まずそうに笑っている、1番会いたかった人が立っていた。
「………はっ!」
色々と情報過多で思考が停止していたがとりあえず家に上げなければ。
「とりあえず家上がり!服汚れとるし風呂入った方がええよ!沸かしとくから!あとなんか食べたいものとか」
「アンタの作ったモン」
「せやからなにを」
「アンタが、タマモリが今日の為に作ってくれたたこ焼きが食いたい」
「え」
「今日アベックになって1年ちょうどやろ。せやからこれ」
そう言うと、目の前にブーケの大きさには不釣り合いな1本の赤い薔薇が差し出された。
「ほんまはもうちょいあったんや。せやけど向かっとる途中にヤカラに絡まれて、そんで携帯ぶっ壊れてもうて、花も守ったんやけど散ってもうて」
残ったんがこれだけやった。すまん。
そう言おうとした直後、腹辺りに衝撃を感じる。
下を見ると顔を埋めながらタマモリが抱きしめていた。
「………なんで」
ああ怒っているな、そう思った時、抱きしめている手に力がこもる。
「なんでそないになってまでウチんとこ来たんや………」
その声は震えていて、今にも泣きそうだった。
「心配したんやぞ………」
「………連絡もせんでホンマにすまんかった。どうしても、アンタのとこ行って届けとうて」
「ゔぅ〜〜………ア"ホォ〜〜…….」
頭をグリグリと擦り付けていると、ギュルルルと爆音がリュウジの腹から聞こえ、驚きで思わず頭を離す。
「あ"ー………すまん、今日なんも食べてへんのや」
「あ………ハハ、ほな今日作ったたこ焼き食べよか!」
そう言いながらタマモリは涙で濡れた目をこすりながらリュウジの手を引く。
「ぎょうさん作ったからぎょうさん食べてな!ケーキもあるんやで!」
「おお、それは楽しみや」
2人の遅めの記念日は、まだ始まったばかりだ。
終わり