七海

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『1000年先も』

彼女が、死んだ。
交通事故だった。
飲酒運転に巻き込まれて呆気なく逝ってしまった。

会社のパワハラで病み、橋から飛び降りようとした私を止めたのは彼女だった。

何故止めた、私には何も無い、邪魔しないでくれ、と叫ぶ私にビンタをし、

『私はあなたに何があったら分からないけど!人間生きてれば何とかなりますから!!死んじゃダメです!!!』

初対面なのに泣きながらそう叫んだ彼女の顔を今でも覚えている。

泣きながらその場で全てを話しても彼女は憐れむ事をせず、全てを聞いてくれた。

『そんな会社辞めちゃいましょう!大丈夫です、私も手伝いますから!』


それが、彼女と私の出会いだった。

私の身に何があろうと彼女は私の側にいてくれた。
火事に巻き込まれ顔を火傷した時も、彼女は私から離れなこった。

『火傷の跡ってカッコいいじゃないですか。男のクンショーって奴ですよ!もし気になるなら眼帯とかどうですか?』

私は彼女に救われていた。
だからこそ、恐ろしかった。
この先、彼女の声や匂い、顔を忘れていく事が何よりも恐ろしかった。

だから私は決意した。
この片付けが全て終わったら、彼女の後を追いかけようと。

葬式を執り行った後、彼女の家族と遺品整理を行った。
片付けている間も、彼女が居ないという事実が私の心を蝕んでいった。
そうして全て片付いて、彼女の両親に頭を下げて帰ろうとしたその時、「あの、」と彼女の母が止めた。




『これ、あの子からの手紙なんだけど『私が死んだら〇〇に渡すように』って書いてありまして………〇〇って、あなたの事ですよね?』

そこから先は覚えていない。私は直ぐに家に帰ると迷いなく手紙の封を切った。


『親愛なる〇〇へ』

『この手紙を読んでいるという事は、私はもう死んでますね?もしもこの手紙を読んでるなら言いたい事があります。』

『私の後を追いかけようなんて真似、絶対にしないでください』

『私は、〇〇に生きてほしいのです』

『これは私のエゴだと分かっています。それでも私は、生きれなかった私の分まで生きて、人生を全うしてほしい。別の人と付き合っても結婚しても私は許します』

『この先、辛い事も苦しい事もあるかもしれません。けれど人間、生きてればなんとかなります』

『だから、貴方は貴方の人生を生きてください。あと、辛かったら忘れても良いですけど、たまに私の事をちょっとでも思い出してくれたら嬉しいです』

『10年後も、100年後も、1000年経っても、〇〇が幸せでありますように!大好きだよ、〇〇!』


『××より 愛を込めて』


流れる涙を拭う事も忘れ、私は手紙を読む。
ああ、これは呪いだ。
こんな事を書かれてしまったら、死ねなくなってしまうじゃないか。

「忘れるか、忘れてなるものか………!」

生きよう。彼女の為に死ぬまで生きて、彼女の為のお土産話を沢山作ってから、彼女の元へ行こう。

「愛してます、××………!」

そうして、私は声を上げて、泣いた。


終わり





この先〇〇は新しい彼女をつくらず、××の事を想いながら生き続けます。
そして××の上からは毎日沢山の花が降ってくるとかこないとか。

2/3/2024, 7:22:00 PM