『あなたに届けたい』
『今日アンタの家行くわ』
そう彼からLINEが来たのが数時間前。現在時間は23時。
LINEを返しても未読無視。電話をかけても出てくれない。
「なんかあったんかなぁ………」
今日は付き合ってちょうど1年経つ。だから、家に行くと言われて嬉しかった。
彼が好きなたこ焼きを作って、ちっちゃなケーキも買って、プレゼントなんかも用意しちゃって。
「………あほらし。なおしとこ」
自分だけ浮ついて馬鹿みたいだ。来ないならせめて、連絡してほしかった。
時刻はもう23時半を過ぎていた。泣きそうな気持ちを抑えながらケーキを片付けようとしたその時。
ピンポーン、と間抜けな音が鳴った。
「え?」
自身の思考が動こうとした直後、ピポピポピポピンポーンと連続で鳴らされ心臓が飛び跳ねる。
「なんやなんやなんや怖怖怖」
バクバクなる心臓を抑えながら玄関へ向かう。漫画にこんなシーンあった気ぃする、なんて思いながら扉を開けると。
「すまん、遅れた」
なんて言って、荷物を持って、少しだけ服がボロボロになりながら気まずそうに笑っている、1番会いたかった人が立っていた。
「………はっ!」
色々と情報過多で思考が停止していたがとりあえず家に上げなければ。
「とりあえず家上がり!服汚れとるし風呂入った方がええよ!沸かしとくから!あとなんか食べたいものとか」
「アンタの作ったモン」
「せやからなにを」
「アンタが、タマモリが今日の為に作ってくれたたこ焼きが食いたい」
「え」
「今日アベックになって1年ちょうどやろ。せやからこれ」
そう言うと、目の前にブーケの大きさには不釣り合いな1本の赤い薔薇が差し出された。
「ほんまはもうちょいあったんや。せやけど向かっとる途中にヤカラに絡まれて、そんで携帯ぶっ壊れてもうて、花も守ったんやけど散ってもうて」
残ったんがこれだけやった。すまん。
そう言おうとした直後、腹辺りに衝撃を感じる。
下を見ると顔を埋めながらタマモリが抱きしめていた。
「………なんで」
ああ怒っているな、そう思った時、抱きしめている手に力がこもる。
「なんでそないになってまでウチんとこ来たんや………」
その声は震えていて、今にも泣きそうだった。
「心配したんやぞ………」
「………連絡もせんでホンマにすまんかった。どうしても、アンタのとこ行って届けとうて」
「ゔぅ〜〜………ア"ホォ〜〜…….」
頭をグリグリと擦り付けていると、ギュルルルと爆音がリュウジの腹から聞こえ、驚きで思わず頭を離す。
「あ"ー………すまん、今日なんも食べてへんのや」
「あ………ハハ、ほな今日作ったたこ焼き食べよか!」
そう言いながらタマモリは涙で濡れた目をこすりながらリュウジの手を引く。
「ぎょうさん作ったからぎょうさん食べてな!ケーキもあるんやで!」
「おお、それは楽しみや」
2人の遅めの記念日は、まだ始まったばかりだ。
終わり
1/30/2024, 1:49:33 PM