田中 うろこ

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10/31/2024, 1:11:03 PM

『理想郷』

手を繋いで理想郷に行こう。僕と、あなた。
花が咲き川は流れ、土も柔らかい。そこで昼寝や食事をして、ずっとはしゃぎ回ろう。ふかふかの芝生に、大木の根の枕。そこから落ちてくる大きな果実をかじって笑い合う。それから、目を閉じると遠くから、森のざわめきが聞こえてきて……

え?大昔に森で迷子になったことがトラウマで、
森が怖い?

……あなたの理想郷も聞きたいなあ。うんうん、そこは小さな小屋が沢山立ち並ぶ草原、いいね。走り回る子供たち。犬や猫、キツネやうさぎもみんなで楽しく遊ぶ。最高だね。冬は小屋の暖炉に集まって、夏は海に。

海、え、あ。海ですか。海かぁ〜〜〜〜そっか、うんうんうん、いいよね海、うんうん。泳げない訳じゃないよ、別にうん、平気平気〜

やっぱ、手は繋がなくてもいいかな、あは……

10/28/2024, 1:12:34 PM

暗がりの中で
お蔵入り。くらだけに。

10/25/2024, 12:05:01 PM

『友達』

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友達という身分に甘え倒していた。私はもうあの子の友達ではない。ただの、暴言厨の他人だ。

『うるさいなあ、そんなんだから……』
『もういい加減にして!』

そう言って、一緒に拡げたプリントを薙ぎ倒して彼女は教室を出ていった。筆箱の中身も辺りに散らばって、見るだけで虚しい。

最近様子がおかしいと思っていたけど、原因は自分にあったんだ。

「……っぐ、ごめ、ごめん……っ」
涙が溢れ出して止まらなかった。あの時も、あの時も、あの時も、私が悪かった。そう思うと、拭いても拭いても足りないほど溢れてくる。今頃あいつは……あのこは、何をしているんだろうか。

―――――――――――――――――

騙して悪かった。そう思ったのもつかの間、私はあまりの幸福感と息苦しさで、階段に思わず腰かけた。大親友を教室に置き去りにして、階段を駆け下りてきた。

『ずっと友達でいてね』
『違ぇだろバカ、大親友だって』

大好きな大親友だ。だから、このくらいではへこたれないよね? きっとこれから、私よりも貧弱な体力で階段を駆け下りてくる。だから、そんな彼女の背中をさするために待ち続ける。そして、「行かないから安心してね」って、声をかけてやるの。そうすれば、もう私しか見えない。

閉校しても待ち続ける。どれだけ経っても、帰りはここを通らなきゃいけないから。

今頃あの子は私のことばかり考えているはず。ああ、そのまま私しか見えなくなればいいわ。私の大好きな友達。私に友達はたくさんいるけど、あなたの友達は私だけだもん。

―――――――――――――――

私の友達は。あのこだけなのに。酷いことを言った。ああ。孤独ならば、生きる意味などない。
三階の窓から、飛び立ってしまおう。二重ロックのかかったカギを丁寧に開けて、スチールで出来た窓枠に足をかけた。風が心地よい夕暮れ時だった。今までありがとう。大好きだったよ。

―――――――――――――――

大親友は、戻ってこなかった。その時彼女が、私のことをどう思っていたかだけが、気がかりだった。



10/24/2024, 8:26:17 AM

『どこまでも続く青い空』

雲の上を歩いてるみたいだ。
何をしていても現実感がなくて、自分の存在すら信じられなくなっていた。踏みしめる自分の重さを感じられなくて、土の硬さも分からない。ただ、スマートホンに向かって独り言を綴って、野球の練習を横耳に歩いている。

部活をサボった。
空は曇っている。今にも雨が降りそうな冷たい風が吹き抜ける。風が耳に触れて、ぼうぼうと呼んでいる。何も出来なかったでくのぼうの自分を呼んでいる。ただ駐輪場に歩くことしか出来ない自分は、知る限りでいちばん暗い歌を歌った。ゴールデンボンバーの『断末魔』を、なるべく小さい声で歌った。しかしそれは、心の中で嵐を巻き起こすくらいの、狂おしい叫びだった。

孤独な人生よ 闇がただ包むなら
あなたの存在を突き刺して 突き刺して
血が流れる暗い 今すぐに

――――――雨は降らなかった。家に着いても降らない。それどころか、雲の流れとは反対に進んだから、うちの庭から見る空は星空が綺麗に見えていた。星は羨ましい。死んだ後に光を届けられるらしいから。僕も星になりたい。けど、死ぬ勇気も、一人で死ぬ寂しさに耐えられる自信もない。結局、なにもないのが僕だ。

翌朝、学校に向かいに自転車に乗ると、空は晴れていた。雲すらないその空は、嫌味なほどに色が濃い。漕げば漕ぐほど、風が顔を撫で付ける。自分の後ろで雑草がさざめくと、自分が存在していることがじんわりとわかってくる。

そこに喜びも悲しみもない。ただ、一切皆苦の生きる苦しみと、感覚だけが虚ろを漕いでいる。













10/22/2024, 3:13:24 AM

『声が枯れるまで』


あのですね、私の喉は一度も枯れたことがないんですよ。いや、嘘かも。覚えてないくらいの幼女時代に何度も潰していたかも。ま知らないんですけどもとにかく、私は覚えている限り一度も喉を枯らしたことがないんですよ!

……うるさい? ああすみません。あなたがどうにも麗しくて美しくて仕方ないもので。いやはや信じられなさそうな目をしていますな、さすが。私このような性格をしていますゆえ、よく嘘を疑われるものです。

しかしです貴方。すごく素敵な黒髪です。素敵なかんばせ、素敵なお身体。ああすみません下品でしたかね。
それから出で立ち、貴方の先程までの歌声も。

え?喉が枯れてしまって声がもう出ないのですか? 確かに先程の歌声はすごく細く儚いものでした……!私の大きな声とは大違い。そこに惹かれたのですがね。ああ失敬私語などいりませんな。

もし良ければ、私のためにまたこの岬で歌ってはくれませんか? 報酬はそうですね、この声が枯れるまで、あなたのために尽くすとお誓い致しましょう。

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