田中 うろこ

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10/24/2024, 8:26:17 AM

『どこまでも続く青い空』

雲の上を歩いてるみたいだ。
何をしていても現実感がなくて、自分の存在すら信じられなくなっていた。踏みしめる自分の重さを感じられなくて、土の硬さも分からない。ただ、スマートホンに向かって独り言を綴って、野球の練習を横耳に歩いている。

部活をサボった。
空は曇っている。今にも雨が降りそうな冷たい風が吹き抜ける。風が耳に触れて、ぼうぼうと呼んでいる。何も出来なかったでくのぼうの自分を呼んでいる。ただ駐輪場に歩くことしか出来ない自分は、知る限りでいちばん暗い歌を歌った。ゴールデンボンバーの『断末魔』を、なるべく小さい声で歌った。しかしそれは、心の中で嵐を巻き起こすくらいの、狂おしい叫びだった。

孤独な人生よ 闇がただ包むなら
あなたの存在を突き刺して 突き刺して
血が流れる暗い 今すぐに

――――――雨は降らなかった。家に着いても降らない。それどころか、雲の流れとは反対に進んだから、うちの庭から見る空は星空が綺麗に見えていた。星は羨ましい。死んだ後に光を届けられるらしいから。僕も星になりたい。けど、死ぬ勇気も、一人で死ぬ寂しさに耐えられる自信もない。結局、なにもないのが僕だ。

翌朝、学校に向かいに自転車に乗ると、空は晴れていた。雲すらないその空は、嫌味なほどに色が濃い。漕げば漕ぐほど、風が顔を撫で付ける。自分の後ろで雑草がさざめくと、自分が存在していることがじんわりとわかってくる。

そこに喜びも悲しみもない。ただ、一切皆苦の生きる苦しみと、感覚だけが虚ろを漕いでいる。













10/22/2024, 3:13:24 AM

『声が枯れるまで』


あのですね、私の喉は一度も枯れたことがないんですよ。いや、嘘かも。覚えてないくらいの幼女時代に何度も潰していたかも。ま知らないんですけどもとにかく、私は覚えている限り一度も喉を枯らしたことがないんですよ!

……うるさい? ああすみません。あなたがどうにも麗しくて美しくて仕方ないもので。いやはや信じられなさそうな目をしていますな、さすが。私このような性格をしていますゆえ、よく嘘を疑われるものです。

しかしです貴方。すごく素敵な黒髪です。素敵なかんばせ、素敵なお身体。ああすみません下品でしたかね。
それから出で立ち、貴方の先程までの歌声も。

え?喉が枯れてしまって声がもう出ないのですか? 確かに先程の歌声はすごく細く儚いものでした……!私の大きな声とは大違い。そこに惹かれたのですがね。ああ失敬私語などいりませんな。

もし良ければ、私のためにまたこの岬で歌ってはくれませんか? 報酬はそうですね、この声が枯れるまで、あなたのために尽くすとお誓い致しましょう。

10/20/2024, 2:19:57 PM

『始まりはいつも』

始まりはいつも、女に台と書いたこの漢字を用いることがほとんど。だけどこの生徒だけは違う。
「……何が違ェんすか、たむティー」
金髪 短ラン 赤インナーの不良生徒、江田。

描きたいものはあるんですけど時間が無い!
置きます!

10/18/2024, 3:03:24 PM

言葉の意味をよく知らん、パス
お題置かせて頂きます。この言葉の意味を知ったらまた書く
秋晴れ

10/18/2024, 4:23:53 AM

ハブとマングースは相性が悪いように、僕と彼女は恐ろしく相性が悪かった。彼女と言っても、恋人関係にはなく、同じ会社の同じ部署、同じ部屋の相向かいにいるだけの人の事だ。彼女は明朗快活、いわゆる誰とでも話せるタイプの人で、その切れ長の瞳はいつでも笑っている。竹を割ったようなハキハキした性格も美しくて、僕には手の届かぬような、太陽のような人だった。

ある日の外回りのこと。

「万屋、暑すぎだよねこれ」
「……あ、そうだね! 蛇谷さん」

照りつけるコンクリートの坂をちまちま登りながら、僕たちふたり、話すこともないままにそれぞれの考え事をする。その時はまだ蛇谷さんのことを好きだと思っていなかったから、ただの陰気な奴だった。彼女のことを好きになってしまった今となっては、彼女の眩しさに目が眩んで言葉が余計に出てこない。好きになればなるほど話せないのは皮肉なものだ。

「……よろずや、何か話すことないの?」
「……あつくて、なにも……」
「……そう」

僕と蛇谷さんは同期だから、フランクな蛇谷さんはタメ口だった。僕もタメ口を試みようとしたものの、恥ずかしくてダメだった。だからこそ、タメ口ができる蛇谷さんが羨ましかったわけで。

「よろずや、後で……ラーメン食おうな」
「絶対行きましょう、暑すぎる」
「ふはっ、お前!」

急に蛇谷さんが吹き出した。坂をあがってしばらくのところの住宅街。少し遠いところにラーメン屋の上りが見える開けた場所で、蛇谷さんは笑っていた。十五時頃の緩やかな日差しに当てられて僕だけに微笑むその目の弧線が、酷く心臓に刺さるみたいだ。

「暑いのに、暑いからラーメン食おうて、くく」
「先に食べようって言ったのは蛇谷さんでしょ」
「あーもう、っくく」

笑いが収まってきたのか、恥ずかしげに結んだ髪の毛の先を整えると、冷静な声色で告げられる。

「在でいいよ、進」
「ある……さん」

その時見上げるような、蛇谷さんの三白眼が、僕の心の弱い所をつつくように射抜いた。耳が、頬が、身体が暑くなってくる。ぶわっと背筋から音がするように鳥肌が立つ。恋の音だ。
初めて、すすむという僕の名前を好きになれたのも、全て蛇谷さんのおかげだ。おかげだったのに。
『今日未明。東京都の某所で、刺殺事件がありました。犯人は、僕の方を向いて欲しかった。と供述しており、懲役六年が確定しています。』

忘れられない。蛇谷さん、これで、あなたの素敵な眼は。僕のものだ。罪と共に背負うから、一生を共にしようね。

「ううん……あるさん♡」

拘置所で狂乱する一人の男性がそこにいた。

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