『寂しいなぁ』
そう呟く彼女の顔はどこかイタズラっぽい顔をしていて、
決して心から寂しいと思っている人間には見えなかった。
だが、確かに自分も少し携帯の画面と向き合いすぎていたかもしれない。
『ごめんね』
自分の落ち度はわかっているが、彼女の発言をあまり真剣に受け止めずに軽く謝った。
悪気はなかったのだが、目線を彼女に向けるわけでもなく画面を観たまま謝罪したのが悪かったみたいだ。
その後のことは言うまでもない。
塵積だったのか次から次と彼女からの文句は出るわ出るわで止まらない。
反撃をしていたのも最初だけで、次第にこちらは何も言えなくなっていく。
キッカケなんて自分では大した事ではないと思う。
ただ、彼女は家から出ていってしまった。
1人だけになった部屋には、ついさっきまで彼女がいた事を見せつけるかのように面影だらけだ。
作りかけのオムライス
自分は決して読まないであろう類の雑誌
新作なんだと言って嬉しそうに買っていた化粧品
出ていってから暫くして、携帯に通知音が鳴った。
さっきまで食い入るように観ていた画面だか、今はあまり観たくない。
表示されていたのは自分と彼女が写っているアイコン、彼女からの連絡だ。
連絡を確認し、なんて返事をしたらいいのか長考していると
『もういい、さよなら』
突然のお別れ宣言。
愛想が尽きたんだろう。
自分の不器用さが嫌になる、ごめんと言えばいいのに今ではそれも嘘くさく聞こえてしまうのではないだろうか。
『寂しいな』
誰もいない部屋に仰向けに寝転がる自分がポツリと呟こうとも、誰かに聞こえるわけでも誰かが答えるわけでもない。
ただ付けっぱなしになっている換気扇の音だけが無音の部屋で響いてる。
部屋に戻ってきて換気扇を止めてくれる事を期待して、
寂しい男は消さずにいる。
作りかけのオムライスは完成することもなく、ただ寂しく
黙って冷めていく。
今年も一緒に年を越せそうで幸せです
大事な人たちと1年を締めくくれるのは嬉しいです
これからも冬だけといわず、春も夏も秋も一緒に感じて
少しずつ、歳をとっていくあなたの隣で歳をとりたい
『やぁ、最近どう?』
先輩がフワッと唐突に話しかけくる。
特に興味もないだろうに、何となく話しかけてきたぐらいだろうか。
『まぁ、、変わりないっすねぇ』
話の始まりがあんまりなもんで、自分も、パッとしない答えになってしまう。
『そっかぁ、まぁ毎日何かあっても大変だもんなぁ』
先輩はタバコを吸いながら天井を見上げて言う。
僕たちは会社の喫煙所でいつも顔を合わせるぐらいの仲だ。
会社は一緒でも仕事上あまり関わりを持たない他部署の
先輩、後輩みたいな関係だ。
ただ、喫煙所で顔を合わせると特に用事がなくても話す。
『そーいやこの前、タバコやめるって言ってなかった??
やめないの??』
また、急に話題を振ってくる。
『確かに言いましたけど、無理でしたよ? 二日間はやめられたんですけどねぇ、、仕事の休憩の時、タバコを吸わなかったから何をしていいのかわかんなくなっちゃって』
半分は本当だ。
もう半分は・・・
『わかるぅ〜、タバコ吸わないんだったら休憩いらないから
早く帰りたいよねぇ〜』
先輩はまだ天井を見てる。
もう半分は先輩と話してる、この何とも言えない・・・
とりとめもない話がなんとなく落ち着くんだろう。
特に意味はないけど何となくこの時間が好きなんだろう。
会社の喫煙所っていろんな仕事の情報が転がってるけど、 先輩の話にはなんの情報もない。
だからこそ、自分には心地よいのかもしれない。
タバコ、やめられないなぁ
12月になり、外歩く人たちの服装もそれらしくなってきた。
コートやダウンを着ている人たちを見ると、今年ももうすぐ終わりだなんて毎年感じちゃってる自分に重ねてきた歳を感じる。
雪が積もったら子供は喜ぶだろうなぁ。
大人はあんまり嬉しくないんだけどもさ。
でも子供たちが朝起きて、カーテンを開けた時に雪が積もってるのを見た時の無邪気な笑顔ったら。
歳をとったからこその新しい喜びなのかもしれない。
雪、早く降らないかなぁ。
気にしないで
大丈夫だよ
ツライのに、大丈夫じゃないのに、傷ついてるのに、
平気なフリをして笑っている。
きっと、
少しでも優しさに触れると涙が止まらなくなってしまう。
みんなに心配を掛けてしまうかもしれない。
そんな事で弱音吐くの? なんて事を言われるかも。
限界を超えているかもわからない。
でも、まだ我慢できるかもしれない。
だから、何でもないフリをする。
みんなは知らない。
気持ちは辛い、苦しい、助けてほしい。
でも、口から出る言葉は
『なんでもないよ』
また、何でもないフリをする。