馬公夂太

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『寂しいなぁ』

そう呟く彼女の顔はどこかイタズラっぽい顔をしていて、
決して心から寂しいと思っている人間には見えなかった。
だが、確かに自分も少し携帯の画面と向き合いすぎていたかもしれない。

『ごめんね』

自分の落ち度はわかっているが、彼女の発言をあまり真剣に受け止めずに軽く謝った。
悪気はなかったのだが、目線を彼女に向けるわけでもなく画面を観たまま謝罪したのが悪かったみたいだ。

その後のことは言うまでもない。
塵積だったのか次から次と彼女からの文句は出るわ出るわで止まらない。
反撃をしていたのも最初だけで、次第にこちらは何も言えなくなっていく。
キッカケなんて自分では大した事ではないと思う。

ただ、彼女は家から出ていってしまった。
1人だけになった部屋には、ついさっきまで彼女がいた事を見せつけるかのように面影だらけだ。

作りかけのオムライス

自分は決して読まないであろう類の雑誌

新作なんだと言って嬉しそうに買っていた化粧品


出ていってから暫くして、携帯に通知音が鳴った。
さっきまで食い入るように観ていた画面だか、今はあまり観たくない。
表示されていたのは自分と彼女が写っているアイコン、彼女からの連絡だ。

連絡を確認し、なんて返事をしたらいいのか長考していると

『もういい、さよなら』

突然のお別れ宣言。
愛想が尽きたんだろう。
自分の不器用さが嫌になる、ごめんと言えばいいのに今ではそれも嘘くさく聞こえてしまうのではないだろうか。

『寂しいな』

誰もいない部屋に仰向けに寝転がる自分がポツリと呟こうとも、誰かに聞こえるわけでも誰かが答えるわけでもない。

ただ付けっぱなしになっている換気扇の音だけが無音の部屋で響いてる。
部屋に戻ってきて換気扇を止めてくれる事を期待して、
寂しい男は消さずにいる。

作りかけのオムライスは完成することもなく、ただ寂しく
黙って冷めていく。



12/19/2024, 11:38:18 AM